case.728

映画とお人形ばかりで恐縮です

2012,5,4 PM7 【映画録『クヒオ大佐』】

クヒオ大佐 [DVD]

クヒオ大佐 [DVD]

視聴からかなり日が開いてしまったのでほとんどツイッターからの引用で手短に。
元からそれなりに期待していた作品だがそれ以上だった。
また日本映画らしい「人間」の描き方だがそれでも確かな独特の路線というものを手にしているように思える。多角的でウィットに富んでいるのに啓発的ではない。普遍的なようなのにしかしただ凡庸としているのでもなく、ひたすら奇妙に、それでも普遍的な「人間」を描いている。その姿はやがて「業」へ行きつく。
この作品で描かれている詐欺師は二流だ。それなりにやり手なので準一流と言ってみてもいいが、少なくとも一流とは決して言えない。漫画の『クロサギ』やアメリカ映画の「オーシャンズシリーズ」のような凄腕のスーパーな犯罪者ではない。大きな獲物といっても、大企業を敵に回したり他の同業者と頭脳戦を繰り広げたりする、いわゆるダークヒーローものではないわけだ。そもそもが結婚詐欺師であるからして、狙う相手は必然的に女性という小さな一個人に収まってしまう。それでも財閥令嬢などを狙うならまだヒロイックの断片が見えるだろうが、ここでもやはり、せいぜいが銀座の高級キャバクラの女将というレベルである。
念のために言えば、彼=クヒオ大佐は三流やド素人でもない。現実的な意味で言えば一流に近い腕を持った詐欺師だし、それにこの作品は、ダメな詐欺師が奮闘して七転八倒する姿を眺めるわかりやすいコメディでもなければ、ギャグタッチを織り交ぜた感動作でもない。
ただやはり一流ではないから、彼の仕事にかける努力はちょっと微笑ましいくらいこせこせしている。手際は鮮やかだが、その内情は決して鮮やかではない。言ってしまえば非常に泥臭い仕事ぶりだ。しかも泥臭いなりに失敗する。一流らしからぬ、しかしとても人間らしい粗から彼の仕事は崩壊する。それは、狙う相手が女性ということで、男女の感性の差が女性(獲物)側の行動に予想外の事態を招かれたなどという原因が予測されやすいだろうが、決してそうではない。むしろ彼の仕事上で女性を騙すことだけについて言えば失敗は一度としてなかった。彼の失敗は、誰のせいでもない、ただリアリズムと人間臭さが看過してしまったツキのなさを原因としたものである。運を引き寄せられないヒーローはどんなに実力があってもやはり二流だろう。
痛快さとも大きな笑いとも無縁のこの作品に一貫して流れているのは切ない雰囲気だ。人が人を愛するとは何なのか。人に愛されるとは、愛させるとはどういう正体を持つのか。彼が探していたような気もするし、彼が体現した答えを私たちが見つけ出せそうなところまで連れて行ってくれるような気もする。愛こそが正義だ。本作を観た後にこの言葉を聞いて首を傾げないわけにはいかない。ただ首を横に振れるかといえばそれもできなくなっている。とまれ正義という言葉の矛盾とむなしさを知っていれば一応の片はつく。
彼が答えを探していたとも取れたことについては半分撤回しよう。彼の少年時代についての告白は、彼の信念がまったく揺らぐものでなかったことを証明し、VS官房長官がその明文化でしかなかったことを思い知らせる。その切なさたるや筆舌に尽くしがたく、しかし一概に切ないと言ってしまうことが彼への侮辱へ繋がるのなら、涙を呑み震えを押さえて彼を偲ぶとしたい。

……いつもながら口約は破られている。長ェ。