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case.728

映画とお人形ばかりで恐縮です

2012,12,11 PM8

読書

何を出したかは三年後、上達してるかは一年後に顧みる。
今顧みるべきは何かをどう出したか。そしてどう出せたか。


/読書
しかし寝読書は肘が疲れるので苦手だったりする。連日やると筋肉痛。おお脆い脆い。

ガガガ文庫『飛べない蝶と空の鯱 〜たゆたう島の郵便箱〜』手島史詞

飛べない蝶と空の鯱 〜たゆたう島の郵便箱〜 (ガガガ文庫)

飛べない蝶と空の鯱 〜たゆたう島の郵便箱〜 (ガガガ文庫)

大地がついえた世界といえばアルトネリコを思い出す。毒性を持つものの魔法に変換できる霧に満ちた世界といえばFFⅨ。そこへテガミバチラストエグザイルを足して適当に割ればこうなる?いやいや、大好きな世界観ですよ。霧いいよね霧。
世界は二つの空。下層たる雲界と、上層たる蒼界。雲海は白い霧で満ちている。毒気を孕んだ特異な霧であり、“霧妖(ムヨウ)”と呼ばれる深海生物じみた容姿の巨大生物たちの棲家であり縄張りだ。生物的に彼らより圧倒的に劣る人類は、本来の青空たる蒼界に岩を浮かべてその上で生きている。浮かべているのは“霧鍵式(ムゲンシキ)”と呼ばれる、雲界の霧を特殊な方法で変換して使役する力だ。さながら錬金術に似ているが、霧を変換するにあたって霧鍵式の使い手はその毒を受けることになる、とか。ハイファンタジーには違いないが凝りすぎてムダに力の入った設定ではないのでわかりやすい。本作をこの言葉で形容するのは少々滑稽だが、比較的「地に足のついた」堅実な世界観だろう。
主人公とヒロインは“渡り鳥”と呼ばれる職業で、要するに郵便屋なのだが、この世界では警察機構と拮抗するほどの力を持っている。というのも、人々が暮らす浮遊する石のかたまり〈島〉同士を、自らが飛行することによって敏速に繋げる者は彼らだけだからだ。飛行に使われるのはもちろん霧鍵式の自動装置(霧鍵機関)を搭載した機体だが、彼らの乗る“翼舟(ツバサブネ)”はバイクのように特別小さく機動性に富む。完全にヴェスパだこれ。軍艦や客船もあるらしいがそんなものとは比べ物にならないくらい軽快で、そして手軽い。だから民衆が、雲界を越えてでも届けたい手紙を彼らに託す。
ただ、そんな小さな機体で空を飛ぶには相当の技術を要する上に、霧を取り入れて加速するためにいちいち雲界へ一時的に潜る必要があるのだ。雲界へ飛び込めば、縄張り意識の高い霧妖たちにたちまち追い回される。翼舟よりも遥かに速く(!?)空での機動性も高い彼らを、飛行の技術だけでかわし、逃げ切るか撃退するかしなくてはならない。確かな腕を持ち風を読める者しか渡り鳥にはなれない。しかし逆に言えば、渡り鳥であることが雲界を渡る技術を持ち合わせている証明ともなるのだ。だから人々は彼らに手紙を託す。テガミバチですねわかります。
時に“封書”と呼ばれる特殊な手紙を渡り鳥たちは託される。封書は送り主の“記憶のかけら”を霧鍵式によって直接封じ込めた手紙であり、つまり送り主の想いそのものである(“こころ”って言ったやつ屋上)。渡り鳥たちにとってこの封書の配達は最重要任務。主人公たちが本作で依頼されるのももちろんそれだ。そしてもちろんいわくつきだ。
送り主は信用できるが厄介な依頼ばかり持ってくるロリババア最強の霧鍵式使い呼ばれる少女。宛名はかつて霧鍵式の暴走で〈島〉を一つ墜とした大罪人。霧鍵式の力が最大限に増幅される“五十年に一度の二つの月が重なる夜”に、間違いなく霧鍵式に関わると思われる封書を主人公たちは届けるのか、否か。
……やはり世界設定をまとめながらだとあらすじのあらすじ分が小さくなるな。まあそれでこそハイファンタジー。むしろこのくらいで収まるくらいシンプルなのが無難。
ちなみに主人公とヒロインは二人で一人の渡り鳥。主人公は軍人並の反射神経だけが取り柄で飛行技術はからきし。ヒロインは技術は天才的だが手負いの子猫的な何か重度の高所恐怖症。だから、珍しい二人乗りの渡り舟で操縦士と航海士を分業している。ヒロインが高所恐怖症なのも主人公が彼女と飛ぶのにもいきさつと理由があって……これ以上は核心に触れるので割愛。
作者は名前は聞かないがすでにいくつかシリーズを手がけている模様。読みながら新人にしては手馴れているとか思っていたが、むしろ手馴れているわりに新人くさかったということか。いや本当に稀にだがドヤ顔が透けて見えつつスベッている表現がいくつか見つかったもので。
しかしながら翼舟と霧妖の空戦は結構熱くてここは飽きない。スピード感というよりは、熱い割に文体ががつがつすることなく落ち着きを保っているがゆえに引き込まれる感じだ。実態はヒロインが「上昇」「右へ!」とか指示するのに合わせて主人公が操縦するだけなのだが、単調にならずにむしろ状況を利用して緩急をうまく調節しているように見えた。ここはかなり見習いたい。
若干引っかかったことといえば、主人公(というか渡り鳥そのもの)にモチベーションのブレがあるように見えたことだ。上手いこと処理しているように見えなくもないのだが、私ごときに据わりの悪さを嗅ぎつけられる程度には実質ダブルスタンダードへ陥っているのではなかろうか。そこまで極端ではないのだが、時折“配達”が空を飛ぶための都合のいい理由と化しているように見える。渡り鳥として空を飛ぶのが本命の目的であり、配達は便宜上の“ついで”のような構図だ。とりあえず一番わかりやすいのは霧妖との戦いに能動的に挑んでいっちゃったところか。そういった未熟さ・青さのある主人公が成長していく姿を楽しむべきなのだろうが、やはりなんだか据わりが悪い。一応件の封書にまつわる物語はよくまとまっていたし(霧の毒素の影響ってどんなもんかとか呪いって何なのみたいな細かい点には目をつむる(でも前者はできれば活かしてほしかった))、その過程で配達の大切さや責任の重さ、配達人としての渡り鳥としての矜持なんかも示されるのだが、むしろ要所要所で思い出したかのように取り沙汰にしてくるのが取り繕うかのようであざとく安っぽいとでも感じてしまったのだろうか(やべえ、そんな苛立ちバリバリで読んでたわけじゃないんだけど!普通に楽しんでなかったら読むの途中でやめてるんですけど!)。少なくともその点に関して主人公を直球で諌める者が一人もいなかったというのが痛恨のように思われる。ツンデレの権化みたいな眼鏡娘がそんなことを言っていた気もするが最初と最後に顔を出しただけの脇役にそんな大役が務まるはずもなく、ケイトさんあらあらで終わってしまっていた。また人間嫌いのヒロインは配達人の鑑に当てるには間違いなくミスキャストだし、いや、特に先達のはずのおっさんが、空飛びたい空飛びたいあの子と一緒に渡り鳥になりたいんだもーん、なのが一番バランス崩してる気がする。その中でも封書の価値が叫ばれていないわけではないのだが…。
うーん、かの『テガミバチ』もラグにとって最終目的は他にあって、テガミを届けることはそのための手段と言っても過言ではないのだが、配達中はそのことを忘れて一心不乱にテガミのことだけを考えている気がする。この差だろうか。まあ、それは漫画だからどうとかよりもまず長期連載という長大な尺によって成り立っている側面もあるわけで、小説として一冊の本の中で舞台をひと区切りさせなければいけないとなるとスケールの大きいところと小さいところとでどうバランスを取っていくかが難しい問題になってくる。本作はいろいろ惜しいのかもしれないが、概ねは見せられるほどに、ちょこちょことした気配りによってバランス調節がなされている。先に言った通りつまらなければ読むのをやめていたかもしれないのだ(自分はハイファンタジーと他のジャンルでは基準が異なる)。読んで損をする一冊ではない。

追記:イラストについて。
すっごい綺麗な絵でメカもかっこよくてカラー最強でヒロインほわほわで断然アタリというか鵜飼沙樹じゃないですか納得!と言いたかったのだが、白黒暗っ!!?トーン濃すぎ!えっ、これもしや一回塗ったのを白黒に落としてる?いやブラックブレッドもそうだったからそうじゃないかと思ってたけどそうだったよ。普通に明るい部屋でもちょっと見づらいのに間接照明だともう真っ暗になる。まともに見られたのはジェシカちゃんの風呂シーンだけだったよ!……あ、じゃいいか( ´д`)。