case.728

映画とお人形ばかりで恐縮です

2013,1,19 PM7 【映画録『完全なる報復』】

社会派テーマほどどうしてこうも脚本が雑になるのか。

完全なる報復 Blu-ray Disc

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完全なる報復
原題: Law Abiding Citizen
アメリカ映画、2009
監督/F・ゲイリー・グレイ、脚本/カート・ウィマー

邦題ぃぃぃぃぃ!(怒)
と思わなくもないが、特に問題はない、相応の中身ではなかろうか。
あらすじは、とある発明家の男が妻と娘を目の前で殺されたのに犯人を減刑した司法取引を恨んでアメリカの司法制度に復讐する、という、切り口は面白い復讐劇。現実的に才能のある発明家で特許もたくさん持っていた上に、とりあえずのうのうと生き延びてやがった殺人犯を徹底的にいたぶって殺す頭脳派サイコモンスターと化しちゃった主人公も復讐鬼としてはなかなか魅力的。天才発明家の頭脳が10年かけて練った復讐のシナリオはまさに「完全なる報復」であり、早々に警察に拘留されたにもかかわらず、刑務所の外では彼が犯人と目される殺人が繰り返されていく。司法の穴を知り尽くした彼の自白と駆け引きに踊らされていく、ニック検事を筆頭にした検察庁。はたして、彼の復讐は完遂するのか、アメリカの司法制度は自らの弱さを前に倒壊するのだろうか――と、なかなか大胆な期待感をこちらも持たされるのだ。無論、日本人ならばとある作品を同時に想起させれるかもしれない。そう、『デスノート』のL編だ。
が、このあらすじから何を期待するのかによって、はたして結末の評価はかなり変わってくる。概ね「オチ」については不満の声があるようだが、私の場合はもう一つ、主人公の「秘策」と「詰めの甘さ」がどうにも我慢ならなかった。

※以下、ネタバレ成分を多く含みます。

主人公はいわば頭脳派の「天才キャラ」だ(天才などと一度も言われていないが充分そう期待されるものと考えられる)。デスノートを読んだことがある人には伝わりやすいかもしれないが、彼が序盤から見せた「すべてが思惑通り」というスーパープレイが、サイコすぎるやりくちとあいまって観客を魅了していく。ここで観客が期待を寄せるのは、次はどんなあっと驚くことをするのだろう、という目先のモンスターについてか、いったいこいつはどこまでお見通しなのだろうか、という、天才(あるいはスーパーサイコ)というものの測り知れなさだろう。客観的に見ても非の打ちどころのない、それでいて大胆不敵な計画が用意されていて初めて、こちらの期待する彼の復讐鬼としての姿と検察側の絶望感が絶頂に至る。
のだ、がッ!

「刑務所の地下あったかいナリィ…」
このサイコ野郎、金にものを言わせて刑務所の土地買い取って、地下に隠し通路作ってやがった。独房は全部、主人公の秘密の工房と直通。検察は見えない共犯者を探し回っていたが実は全部自分でやってた。
なんか、違う。
驚いたのは確かだ。刑務所まるごと買い取るなんて普通じゃ思いつかない。ああ、観客も思いつかなかっただろうよ。だってそんなの頭脳プレイでも何でもないじゃないか!

いろよ!そこに!
どんな方法であれ独房から出ちゃダメだろう出ちゃ。あんたの復讐鬼としてのアイデンティティは司法を知り尽くしていることだろうが、殺人鬼としてのは「独房に居ながら狙った獲物を狙ったタイミングで殺せる」っていうスーパーなところだったじゃないか。そこへ究極的に何を期待してたかといえば、「拘留された時点ですべての仕込みは終わっていて、彼がほとんど何もしなくても事態が勝手に進んでいく」というスーパートリックだ。看守の目を盗んでコソコソ外へ出てロケットランチャーをぶっ放すとか、そういうことじゃなかったんだよ。

結末はね、納得はできるんだよ。
刑務所地下のトリックを手遅れにらないうちに暴けたのは、サラの置き土産もあったけれど、何よりニック検事が司法に頼らない手段を選んだからだ。つまり司法自体は最後まで主人公に一矢報いることができなかったということで、司法側の人間が司法に頼るのをやめた時点で主人公の勝ちだったんだ。司法の無力さを示せた。
だが、そういうテーマ性も大事だろうけど、観客は主人公のアンチヒロイックに輝く姿も観ていたかったんだよ。ニックがどのタイミングで司法を捨てるかまで計算済みで(あるいはどのタイミングでもいいようにしていて)、それで自分は退場することになるけれど、最後にでかい花火はちゃっかり打ち上げて、わかりやすい爪痕を残していく。そんな結末が見たくなるものではないの?というか、最終的にそのでかい花火が打ちあがったとしても、司法は敵としてはでかすぎて揺らぐことはなかった、って締め方も無理ではなかったように思う。

まあ、そもそもトリックやオチが云々を言う以前に、主人公の最後の犯罪の止められ方がお粗末すぎるんですけどね。爆弾設置した部屋の前の監視カメラに移る位置にカモフら用の掃除用具ほっぽりだして帰ってたら観客はブラフだ!って思うでしょう?まんまの釣られたニック検事ざまぁって思うでしょう?で、本命の爆弾はどこにあるのって訊いてみて、「えっ、あれが本命だったんだけど……」と返された日には絶句しますよそりゃあ。ついでに言えばなんでカバン放置しただけで設置した気分になってたんですかとも訊いてみたい。忘れ物や不審物として持っていかれるとか、万一ニックたちに発見されるとか、不測の事態に備えなかったの?移動できないように固定しておくとか、どうせブラフだけど解体しようとすると爆発するよとか、何かできたでしょうよ。暗殺兵器とかまで作れる天才発明家さんなんでしょう?

思えばニック検事にしたこともちっちゃいよね。検事の威信を踏みつけるような要求を呑ませたり、家族に殺人拷問ビデオ送りつけたり。前者は計画の一環もあったんだろうけど、ベッドや高級ステーキをチョイスしたのは明らかに嫌がらせです。

「お前司法嫌いなだけだろ? 嫌がらせがしたいだけだろ?」
ワンパンマンのガロウを思い出す。
もしかしたら、「司法取引ではこんなくだらないことまで取引してくれちゃうんだぜぇ?」っていう前例を作りたかったのかもしれない。高級ステーキはたぶん尖った骨が高確率で入っている店を事前に調べておいたんだろう。ベッドはその足かけとして、先にただの嫌な奴と思い込ませて油断させるため?刑務所の所長を煽るため?少なくとも、くだらない取引に応じた末に主人公に凶器を渡してしまった、ということで検察の面目が丸つぶれになったのも確か。
けど、面目とかそういう問題じゃない気もするんですよ。何せ司法を相手取る気なんだから、そんなチクチクしたやり方でどこへ持っていこうとしているの?どう決着がつけばあなたの復讐は完遂するの?
そのへんがちょっとふわふわしてるあたり、何より脚本がB級だったのだろうと思う。