case.728

映画とお人形ばかりで恐縮です

2013,1,28 PM12 【映画録『アンノウン』】

アンノウン ブルーレイ&DVDセット(2枚組)【初回限定生産】 [Blu-ray]

アンノウン ブルーレイ&DVDセット(2枚組)【初回限定生産】 [Blu-ray]

『アンノウン』

原題:Unknown
アメリカ映画、2011年
監督/ジャウム・コレット=セラ
脚本/スティーヴン・コーンウェル&オリヴァー・ブッチャー

飛行機でベルリンにやって来たやや年増の夫婦。夫(リーアム・ニーソン)の方は学会での発表に来たという。見せ終わったパスポートをカバンにしまい、悠々と飛行場を出てタクシーに乗り込む二人。ところがタクシー運転手は頼まれた荷物の積み込みをミスしてパスポート入りのカバンが置き去りに。誰もそれに気がつかないまま夫婦はホテルへ。妻(ジャニュアリー・ジョーンズ)がチェックインしているうちに、夫の方が玄関で荷物が足りないことに気がつく。仕方なく別のタクシーを拾い、一人空港に戻ろうとする。ホテルの中にいて事態を知らない妻には携帯で連絡しようとするも、運悪くタクシーは圏外の通りを走る。まあ急いで戻れば間に合うか。夫は若い女性タクシードライバーに近道をするよう頼んだ。スピードを上げて狭い橋を渡る途中、前を走っていた車の二台から固定の甘かった冷蔵庫が落ちる。慌ててそれを避けるタクシー。おかげで橋の欄干を突き破り、川へと転落。タクシードライバーのおかげで夫は一命を取り留めたものの、意識を失い病院へ搬送される。

目覚めたのは数日後だった。川への転落時に頭を車のドアにぶつけた彼は軽い記憶喪失に陥っていた。どうにか自分の名前と妻のことと学会発表を思い出し、医者が止めるのも効かずにホテルへ舞い戻る。あいかわらずパスポートも招待状もない。だが妻や見知った学者が自分を自分だと証明してくれるだろう。ガードマンたちを説得し、学会前のパーティに出席していた妻をようやく見つける。だが妻の放った一言は「人違い」だった。

おまけに彼女の夫で学者マーティン・ハリスだと名乗る男が現れる。大学のホームページを調べてもマーティン・ハリスはその男だった。医者から記憶障害の可能性を説かれ、異国で身分を証明してくれるものもない主人公は自分の記憶に自信が持てなくなる。ところが、駅で見知らぬ男に追いかけられ、戻った病院でも同じ男に拉致されそうになり、やはり自分の記憶が正しくて何かの陰謀が自分を陥れていると確信し始める。

やや詳細に書きすぎたせいで長くなったがここまでが公式にもある導入部のあらすじ。これだけ見ると、本当に陰謀渦巻くサスペンスか、と来るよりも、主人公狂人オチのありきたりなサイコスリラーの方を期待してしまうのは、きっと私だけではなかったと思いたい。

※ここからは全部ネタバレに相当。


サイコスリラーだと思ったか!残念!普通のサスペンスでした!
そもそもサスペンス映画という触れ込みだから特にそれでがっかりしたという人はいないのかもしれない。少なくともホラー的な要素はないし、何よりサイコはまったくないと考えた方がいい。サイコ(主人公の妄想・思い込みEND)だけを期待してこれを観てしまった人だけは痛い目を見ることになるだろう。こちらとしてはサイコ的なオチだと安っぽくならない方が難しいという危惧の方で意識していたに過ぎないので、むしろ純粋なサスペンスであったことは嬉しかったのだが。

とはいえ、サイコスリラーを見慣れているとそういうブラフになってしまいそうな要素なら結構多い。だから序盤はあえてサイコと疑いながら観るのもまた一興かもしれない(駅で見知らぬ男は確かに追ってくるが、電車に乗り遅れそうになって急いだから走っただけにも見える)。またサイコを否定する要素も同時に出てくることが多い(駅で追ってきた男は主人公を拉致するために点滴に薬を混ぜる、ついでに看護婦も一人殺す、両方とも主人公の錯覚としてはありえない描写)ので、少しでもサイコという前提で見ているとつじつまの合わなさに悶々とできて楽しいかも。

ただしそういうのは中盤までに留めて、事故のとき乗っていたタクシーの運転手ジーナ(ダイアン・クルーガー)が出てきたあたりから頭を切り替えなくてはいけない。ノーブラ・タンクトップの表面に浮いしまっているダイアンの乳首に少なからずにやにやしていると、突然黒ずくめの男二人が部屋へ乱入して襲いかかってくる。うち一人は駅で追ってきたあの男だ。二人とも明らかに訓練されたプロの殺し屋のごとき動きをしている。ジーナを仕留めるために使おうとした注射器も007が持っていそうな機械だ。さらに主人公、このプロらしき男たちを相手にやたら奮闘。さらにエキサイティングなハンドリングでカーチェイスまで始める始末。お前ホントに大学教授か?

はい、彼は大学教授ではありませんでした。
そもそも冒頭のところで空港のチェック係に滞在の目的について訊かれ、「学会」と答えた彼に対し、妻を演じていた女は「ホントに学会だけ?」と悪戯っぽく問いかける。もちろん、本当に学会以外の目的があるからこそ叩ける軽口だ。ただこの時点では「他の目的=観光かな?」くらいにしか思わないだろうが、改めて考えると伏線になっている。あとは記憶障害の後の主人公だ。そっちの彼によればベルリンに来た目的は「学会」だけになっている。もう一つ、というか本命の目的に関してのみ記憶喪失のままなのだ。その本命の目的とは何か。それは、大学教授に成りすまして殺し屋の仕事を完遂することだった。

このオチ自体は構図が綺麗にまとまっている上にほどよく予想外なため気に入っている。主人公は同じ殺し屋組織の一員であり、病院で寝ている間に主人公と入れ替わったのは周到な組織が用意しておいたヘルプ要員。拉致犯たちは記憶喪失で暴れまわってる主人公が邪魔なんで回収しに来ただけ。陰謀も何も最初の主人公の事故が偶然すぎて、組織が不測の事態に対応した結果、不測の事態が積み重なっていろいろわやくちゃになりかけた、と。

なんつうか、主人公悪くないけど組織の運が悪かったんだなあ。ていうか話のスケールが突然でかくなる。組織が狙ってたのは品種改良で食糧難に立ち向かう中東の王子暗殺、に見せかけた、貧困地域から特許料巻きあげられるはずの新種作物のデータ。だから植物学者になりすまして王子たちの学会に潜り込む必要があったのね。

協力を申し出てくれる情報屋ユルゲン翁(ブルーノ・ガンツ)も、元ナチスの親衛隊だとかでなんだか大袈裟な臭いがし始める。サイコスリラーを疑っているとこの大袈裟さがきな臭くていい感じなのだが、国際殺し屋集団とか本当に大袈裟な話になってしまった。

脚本もそのスケールに比例するように、B級とまでは言わないが、雑というか、よく言えば大味な話になっていく。サイコスリラーで“ないこと”を充分楽しんだら、あとは思考を手放した方が楽しめる。細かいことに突っこんでいるとキリがない。

殺し屋だった頃の記憶を取り戻したら?ジーナ個人に対しては情が湧いてるかもしれないが、組織の計画を阻止しなくては、とはならないはずだ。実は組織を抜けたがっていた、とかの描写が少しでもあれば納得できたかもしれないが、主人公がこれまでどういうつもりで組織に所属していたのかなどの描写は皆無と言っていい。仮に記憶を取り戻したのではなく、身分証などの物的証拠から確信したに過ぎず、中身はまだ大学教授マーティン・ハリスのままだったとしても、自分が殺し屋であることを率直に忌むというのはあまりに性善説に頼り過ぎではないか?

いや、そんな難しい話をしなくてもいい。元ナチスエリートが“絶対に逃げられない”と悟って青酸カリで自殺するくらいやばい暗殺組織なのに、思い返すといくら不測の事態とはいえ対応が雑すぎる上に雑魚すぎる。駅なんぞで後ろから近付いてどうマーティンを回収するつもりだったのか。病院での拉致はもっとスムーズにできなかったのか。ていうか騒ぎになるのも恐れず不用意に無関係者を殺しすぎではないか。最初にマーティンが事故に遭ったときなぜ病院をあたるという発想がなかったのか。マジで邪魔なら狙撃でも何でもすればよかったじゃないか。遠くからでも悪目立ちする立体駐車場でマーティン処刑しようとしたらそりゃ協力者に見つかるわ三流のマフィア映画の観過ぎでないの?そしてたかが難民の小娘ジーナにいったい何人殺されているのか。

BOMB!
暗殺用の時限爆弾をハリス夫人がわざわざ止めに行った理由も弱い。確かに彼女は監視カメラに写ってしまっているので、爆発してしまったら部屋番号から容疑者の一人にされることになる。が、爆弾が仕掛けられている可能性が発覚した時点で爆弾がどこに仕掛けられているかも発覚している可能性が高いわけで、ていうか止めた爆弾はちゃんと回収して隠さないと意味なくない?また爆発してもしなくても、特許データが盗まれたと発覚したらとりあえずハリス夫妻は指名手配だろう。姿をくらませる準備をちゃんとしているなら爆弾なんてほっといて逃げればいい。
いやー、ていうか爆発しちゃったし。夫人がわざと爆発四散して警察からも組織からも「サヨナラ!」するつもりだったとかならまだわからんでもないけどあれは明らかに間に合ってなかった。製作者いったい何がしたかったんだ…。

そしてホテルはこの有様で、主人公と偽主人公がラストガチバトル。って何映画だもう!
最後は殺し屋の戦闘技術を持った正義のヒーローとして生まれ変わる主人公。ヒロイン・ジーナは殺し屋の記憶を取り戻した彼に怯えるものの、彼は優しくジーナの手を取り駆け出す。


そして二人はそれぞれ新たな人生を……。
え?組織追ってくるんじゃないかって?いや皆殺しにしたっぽいしさ。5人くらいしかいなかったけど。
本当に後半は考えるな感じろである。実際何も考えずに観れば熱い展開に見えなくもないのでそれなりにはノれる。リーアム・ニーソンかっけーなー。個人的にはカーチェイスのセンスが好き。

歩道が空いているではないか。

歩道が開いているではないかその2。歩道好きだな。
前者は特に、正面からツッコんできたのに対してバック+フルスロットルで立ち回るっていう、地味な割になかなかエキセントリックなチェイス。ここは口笛吹いたよ。
あとは、ダイアン・クルーガーかわいい、セバスチャン・コッホもかわいい、ブルーノ・ガンツマジイケメンとかで楽しめればいいかなと。ジャニュアリーも負けてねえ。それにしても彼女の金髪は異様に目立つな。