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case.728

映画とお人形ばかりで恐縮です

2013,11,16 PM7 【映画録11-B『ランズエンド』】

本日のお品書き

【映画録11-B】

  • ランズエンド

【映画録11-A】

  • 藁の盾

【映画録11-C】

【映画録11-A】のつづきです。

case.728の映画録は、ネタバレは「もしもあったらごめんなさい」でお送り致します。

11月7日『ランズエンド』


  • 倒叙モノって探してもなかなか見つからないんですよね。昨今大味狙いばかりの洋画でしかも良作プリーズとやっていると特に。好みで言っても馴染みで言っても自分の場合もっと観てないとおかしいくらい好きなジャンルなんですが。
  • 厳密には本作は倒叙モノというより、殺人者を主人公に据えたドラマジャンルの映画というべきでしょうか(一応近年の倒叙モノでは大きな要素となっているようですが)。個人的には『パラノイド・パーク』、書籍では『青の炎』がバイブルです。そもそも自分の場合、国内ドラマの刑事ものでも昔から人情ドラマ的要素の強い『はぐれ刑事』に多く親しんできたせいか、探偵役が推理していくものよりは犯人役が追い詰められていく中での苦悩やら葛藤やら、さらに周りの人間も巻き込んで群像劇化するようなものの方が水が合うのです。
  • そんな自分にとって、本作との出会いはまさに幸運。
  • とりあえず「追う者が追われる者に」という振れ込みで、国内では上映されなかったもののいわゆるTSUTAYA独占レンタルで良作とのうわさを鵜呑みにして視聴。ただし倒叙モノという事前知識はありませんでしたから、また「組織の都合で濡れ衣ヲー」展開でもまあ文句は言うまいという気構えではあったのですが、そういう気抜けを差し引いても目からうろこの良作、いえ、ほとんど秀作と言えるくらいの掘り出し物でした。
  • ドンパチとは完全無縁。あらすじは、元刑事課長の父親を持って同じ部署に勤める中堅刑事の兄弟が、警察署外で違法な取り調べを秘密裏に行っている最中に、誤って被疑者を殺してしまう。すでに妻子のある兄と、認知症気味の父を抱えながら結婚したい相手のいる弟は、実行犯にあたる兄の提案で事態の隠蔽を決意。唯一の目撃者は、被疑者を連れていくのに使った車の後部座席で酔いつぶれていた、認知症の父だけ。しかしその被疑者について次第に冤罪の可能性が……というもの。
  • 許されざる罪を犯した者が何をすべきか、救済はどこにあるのか、という難しいお話ではありません。追い詰められたとき、人は結局何のために行動するのか。本作が作中で語る回答はとてもシンプルです。シンプルゆえに責任転嫁にも見えてしまうかもしれませんが、人が弱い生き物であることについてもまた作中にてほとんど常に表現されています。そう、本作には強い人間がほとんど登場しません。そして、だからと言うように、誰しもがその同じ回答だけに基づいて選択し、行動している。か弱い人間の範疇でしか、本作は回答を示さない。相応の表現に留めることにより、彼らのその痛ましさと、痛ましいがゆえの愛おしさとが、真剣に表現されていました。
  • 作品の全体を見つめても、脚本自体は唸るようなものではないでしょう。お膳立てから至極当然のようにしか流れていかない。ただ、慎重なだけにその流れを描き切った本作は完成度において目を見張るものがあり、さらに最初からある人物配置の秀逸さが流れそのものをも格別のものに演出しています。確かに地味なのですが、非の打ちどころがありません。
  • 唸るようなものでないと書きましたが脚本の細部においては光る要素も多いです。認知症の父親が手に入れてしまった兄弟の犯行の決定的な証拠は、中盤の初め頃からすでにチラつかせられながら、終盤までまさに見えている伏線として回収されずにおかれます。死んだ被疑者の事件も中盤に来て解明されるまでずっと宙ぶらりんのままですし、解明されたらされたで兄弟が追い詰められ始めるわけですからこちらは息つく暇もありません。目撃者の配置や登場タイミングも妥当。意外性のなさが逆に意外性になっていたりもします。
  • 倒叙モノですからね。終始どうしようもなく苦しい(自分が心苦しいし、登場人物も見苦しい)ですし、当たり前のように誰も幸せにはならず、どう転んだって感動できる結末は訪れない、ぐらいの認識で観なくてはとても観られたものではありません。昨今自分の巡り合わせが悪いのかそういう世代なのか、こういう作品の登場人物をただのクズだと切り捨てて、その哀愁や苦悩に寄り添うことのできない人間が多いように感じます。性根の問題とあってはもはや仕方もなしですが、フィクションにすら非情というのはなんだか寂しい話です。
  • 歳よりの愚痴臭くなってしまいましたが、また演じている方々のすばらしさが、本作を倒叙モノ的群像劇として味わうべきものにまで昇華させてもいます。苦悩を主眼に置いた作品ほどやはり役者の実力が試されるものですね。
  • 主演のポール・ベタニーはあの『ドッグ・ヴィル』でも出番の多いキャラをやらされていましたが、殺人の隠蔽に走りながら罪悪感と露見への恐怖に震えるある意味狂気的とも言える本作の兄役も見ごたえあるものにしてくれていました。被疑者役のベン・クロンプトン(ちょっと役者名に確証がないのですが)はやや浮いているのですが、役柄的には冴え渡るものがあるあたりはキャスティングのお手柄でもあるところも大きかったものと思います。
  • それにしてもどうしてこんなにいい作品が日本では未公開なのか。90分枠のせいかもしれませんが、やはり地味で救いがなく、納得することがそもそも困難なテーマは難解とされるためでしょうか。映画製作の業界だけでなく配給業界も厳しいご時世だと聞きますが、万人が共感し得るようなテーマばかりで、それはそれで客足が遠のく理由ではないかと、疑っていないと言えば嘘になります。

【映画録11-C】へつづきます。