case.728

映画とお人形ばかりで恐縮です

映画録66『マッキー』

ぐええぇげんこうとまったたた……

 

※case.728の映画録は、5段落前後でまとめる既観賞者向けの参考記事を目指しています。ネタバレ・解説記事ではありませんが、物語の中核には触れているので未観賞の方はご注意ください。

 

7月17日 マッキー

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「僕はハエ。地獄に落ちろ」

 

1.地獄からあいつが帰ってくる…!

 

八月下旬には三池監督による有名な四谷怪談を元にしたホラー映画『喰女 ‐クイメ‐』が公開されますね。痴情のもつれで殺された女性が怨霊となって復讐のためにお皿を割りまくる*1、いわゆる有名な「お岩さん」です。

殺された人が復讐に帰ってくる物語というのは、顕在する形は違えどおおよそ古今東西にあるギミックのようです。とりあえず日本史は古事記からすでに怨霊の祟りだらけ*2ですし(笑)、怨霊より悪魔や神々が怖すぎる西洋に行くと見つけづらくはなりますが、やっぱり夜のお墓では死者の呼ぶ声が怖かったり、殺した相手が悪夢的な幻覚としては見えたり。直接怨霊が帰ってこなくてもそういった恐怖の対象としてはマクベスオペラ座の怪人などで表されています。映画はニューヨークの幻シックスセンスで悪霊も出てきますね。さらに昨今はジャパニーズホラーの影響もあってか死霊の皆様も張り切っておられるようで*3

じゃあインド映画では?仏教やヒンドゥーの圏内なので、死霊が直接というより“輪廻天性”を通して生まれ変わった姿で帰ってくる、なんてバリエーションに目が留まります。来世で結ばれる的なラブストーリーもちらほら。怨霊の復讐なら、何かに生まれ変わって恋敵を抹殺しようとするわけです。

 

じゃあ何に生まれ変わらせよう?ハエ?ハエはどうだ?なんでハエ?ハエが復讐?ハエが人間をやっつける?前世で恋した女の子を守るために?

 

こうぶっ飛んだ設定で映画をやらせたら今や右に出る者のいないインド!はい、今回もやってくれました。マジでハエ度120%の最強リベンジング3Dアクションコメディ!

満足度も120%!笑い転げて地獄に落ちろ!

 

 

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2.あらすじ ~僕は恋の奴隷、君のガーディアン~

 

ジャニ(ナーニ)はストーカー恋する一途な男である。慈善活動家である麗しのビンドゥ(サマンサ・ルス・プラブ)に二年も片思いし続けている。付かず離れず片時も目を離さずまとわりついて離れない。すでに彼女のツンデレぶりが手に取るようにわかるほどだ。周りは彼のことをキモいアホと言って呆れるばかり。しかしビンドゥはまんざらでもなかった。その二年間も一瞬もブレることなく向けられ続けた誠実で純朴なジャニの好意は、彼女を本物のツンデレに変えていたのだ。

そしてついに実りを迎えるジャニの恋。しかしその間際、建設会社の社長スディープ(俳優名もスディープ)が現れる。「この世の女はみんな俺に振り向く」と思い込んでいるスディープは、募金を集めに現れたビンドゥを見初め、大金を積んで彼女に近づこうとする。しかしビンドゥはスディープを見ていない。おかしい、こんなはずでは。苛立つスディープはビンドゥの視線の先にいるジャニの姿に気がついた。あのお調子者のふざけたガキが俺のライバルだと?ふざけるな!スディープはジャニを誘拐し、ハエを踏みつぶすようにあっさりと殺してしまう。

かわいそうなジャニ。キモかったけど。しかし死にゆく彼の気がかりはビンドゥのことばかり。このままでは彼女がスディープの毒牙にかかってしまう。彼女に手を出したらあいつを殺してやる。そう誓いながら息絶えた瞬間、彼になんか奇跡が起こった。遺体のそばに落ちていたキモい虫の卵に吸い込まれていくジャニの魂。10日後、卵は無事に孵り、一匹のハエが生まれ出てくる。そしてハエはすぐさま思い出すのだ。ビンドゥを守らなくては。スディープを殺さなくては。そうだ、僕は生まれ変わった。僕はジャニ。地獄に落ちろ!

 

 

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3.問答無用!ハエがすべてを奪い去る地獄!

 

“マッキー”はヒンディー語でハエの意。なんでハエ?

ヒンドゥーには造詣が深くないので宗教の逸話的な由来があるかどうかはわからないです。インドではそういうのが当たり前の教養だったりする(日本人が誰でも竹取物語を知っているように)ようなので、ない話ではないのかも。とりあえず、「生前がビンドゥに対してストーカーじみたアタックを繰り返し、まるでハエのようにまとわりついて周りをうるさく飛び回っていたからハエに生まれ変わったのだ」と言われると、わりとすんなりしっくりきます。仏教の地獄道の考え方に似てますよね。

理由はそれでいいけど、しかしそのハエの体でどうやってスディープをやっつけるのか。だってハエだよ?たかがハエ。

と最初は思うのですが、しかしよく思い出してみましょう。ハエや蚊が耳元を飛んだ時のあの「プゥ~ン」を。眠っているときに「プゥ~ン」と来られて飛び起きたことがありませんか?仕事中に「プゥ~ン」と来られて気が散った経験がありませんか?虫の羽音の不快さは、黒板をひっかく音と並んで、生き物に多大な瞬間的ストレスを与えるものの一つです。牛ですら嫌がります。重大な精神病を抱える人や薬物依存症患者の中には常時ハエ・蚊の羽音が幻聴として聞こえる人もいるそうですし、大昔のどこかの国には受刑者に発狂するまでこれを聞かせ続ける拷問があったとか*4

 

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そんなおそろしい対人兵器を持った生き物が、明確な悪意を持って特定の人間をターゲットするようになったらどうなると思います?スディープはハエとなったジャニにつきまとわれ、夜も眠れず、仕事にも集中できず、日常生活すらままならず、車の運転に至ってはあわや大怪我をしかけるほどの大事故を起こさせられる始末。あまねく女性を籠絡するポーカーフェイスはどこへやら、ハエを探していつもきょろきょろするようになり、ハエたたきを持ち歩く。言うまでもなく周りには白い目で見られ、ともすればあの社長は頭がおかしくなったらしいと噂され、しかしそれを気に留める余裕すらもなくなって、彼の人生は加速度的に破滅へ突き進んでいくのです。

もちろん、どうにもならないのがハエのすばやさでもあります。人生でハエを10匹以上叩き潰したことがあるという人はそれを自慢してもいいと僕は思っています。ハエたたきをどんなに振りまわしてもスディープはハエを倒せない。ジャニという人間の知能を有しているので、ハエ取り用の罠にも引っかからない。

なんか既視感あると思ったら『トムとジェリー』ですね。社長とハエ。なかよく喧嘩しますが、社長は失うものが多すぎてトムよりも悲惨な模様。人に同情されない立場とはいえそれでも彼の身になるとかなりホラー。

そこに颯爽と現れるアー◯ジェットさん!

スプレー式殺虫剤の登場に、ジャニ、絶体絶命のピィィィーンチ!!

……かに見えたのですが――

 

 

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4.小さな世界の無限の可能性地獄!

 

アー◯ジェットが効かない!?

このハエ……うそだろ……ハエが、ハエがマスクをつけてやがる!

マスクだけじゃねえ!でかい複眼を守るためのゴーグルも!

驚愕のマイクロ防護マスク。仕立てるのはなんとビンドゥ。

ジャニの必死の努力と機転により、ビンドゥは彼がハエとして転生したことと、彼を殺したのが自分を狙うスディープであったことを知り、趣味のマイクロアートを駆使してジャニのスディープ抹殺に協力することになるのです。

ここの設定もなにげに「なんだそれ!?」。ビンドゥの趣味がマイクロアートだったのはこのための伏線だったのかー、というのはまだいいとして、ジャニは何のためらいも呵責もなく復讐のためにビンドゥの協力を仰ぎます。さすがは荒ぶるシヴァ神を主神とする国。ていうかジャニくんマジ怨霊。愛と怨念パワーで生まれ変わった彼にはビンドゥへの想いと怨の念しかなかったようです。スディープが本当に悪いやつだからこう単純で構わない脚本なのですが、見方を変えるとかなりホラー。ビンドゥがジャニの怨念に操られているように見えなくもなくて…(^_^;)

それにしてもビンドゥさんがハエ・ジャニのために作るカスタマイズグッズがステキすぎます。マイクロアートったって限度があるでしょ。ていうかハエ用の筋トレグッズまで作っちゃうビンドゥさんがちょっとかわいい。と思ってたらホントにそれで筋トレしたジャニがマッスルアップしてて笑えます。いやいや節足動物ってなんだっけ?そう、ツッコんだら負けです。そうでなくてもツッコみ切れない!そういうところのセンスがまた最高です。

 

 

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5.インド映画で世界中を笑顔地獄に!

 

そしてそんなハチャメチャな本作のすべてを実現するのが、破格のVFX(いわゆるCG)。安定感バツグンの最強インド映画クオリティ。『ROBOT』の記事のときも書きましたがホント、お金のかけ方が分かってるって感じです。またVFXを除いてもなかなかイカした映像演出が詰め込まれていて、本当に終始目が楽しい。しばらく他の笑える映画は観なくてもよくなります。おなかいっぱい。

ちなみに僕のお気に入りは「重要な会議」のところ。社長がすでにかなり壊れてきていましたが、本当にハエのことで頭がいっぱいなのが伝わってきます。そこから続く「金庫」のシーンも大好き。手放したバーナーで金庫が焼却炉になってるのを見た瞬間の社長の「うあああああああ!!!」って顔は忘れられません。

 

 

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マッキ― [DVD]

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*1:独自の解釈である可能性。

*2:そもそも日本では怨霊が神になっちゃう。キリスト教圏ではこれがほぼない。

*3:グレイヴ・エンカウンターズ、MAMA、ワン・ミス・コール、死霊館、等

*4:出典捜索中。情報求ム。