case.728

映画とお人形ばかりで恐縮です

映画録67『マンハッタン恋愛セラピー』

 

ベルゼブブといえばハエの王。『マッキー』の記事が映画録“66”であったことには牡羊座の僕だってセンチメンタリズムな運命を感じずにいられない!*1

だがヒンドゥーである。

 

※case.728の映画録は、5段落前後でまとめる既観賞者向けの参考記事を目指しています。ネタバレ・解説記事ではありませんが、物語の中核には触れているので未観賞の方はご注意ください。

 

7月18日 マンハッタン恋愛セラピー

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「ゲイ思春期はこれから」

 

1.「あなたは本当に異性愛者ですか?」

 

「頭の中で答えてください」

見出しからいきなりなにげに怖い質問ですが、もちろん多くの人がこの質問に「Yes」と頭の中で答えます。「No」と答える人は、自分が「No」であることに自覚のある人、というのは言うまでもありません。

しかし、その“自覚”ってどこから来るんでしょう?他人と恋愛するのが好きな人は、すでに充分“確認”ができていますね。でも、みんながみんな恋愛のことを深く考えているわけじゃない。ただみんなの真似をしているだけの人もいれば、他のことに夢中でまったく興味のない人もいる。そういう人の「Yes」にも根拠はあるのでしょうか?

特に女性の方々。男性はちょっとわかりやすいんですよね。なんていうか、その、下品なんですが、フフ…。

というのは別に、根拠がないことを疑えと言いたいわけではありません。そんなことをみんなで無理に考え詰めなくてもいいでしょう。怖いですし。

とはいえ、稀な存在としていることはあるんです。いわゆる“気がついていない人”って。

同性愛は先天的なものです。しかし、その誰もが子供の頃から自分が周りと違うことに気がついて悩んで成長してくるわけではありません。結婚適齢期になって初めて直面してビックリ仰天、さあどうしよう!? 気づかずに楽しく生きてこられたことが必ずしも幸せだとは限りません。

けれども、気が付くことで自分というものは変わってしまうのでしょうか?賞味期限が切れる夜の零時にミルクには致命的な何事かが?歩みが変われば人生も変わる。だけど歩みが変わるその場所まで歩いてきたのは今までの自分で、その場所自体はどこへもシフトしない。性癖に限らず思春期とは、つまりそういうことを知る時期のことを言うのかも。

 

 

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2.あらすじ ~あの夜から女性の下着姿ばかり思い浮かぶ~

 

ニューヨークの広告代理店で働く若手キャリアウーマンのグレイ(ヘザー・グラハム)は、現在研修医の兄のサム(トム・カバナー)と独身同士の二人暮らし。二人は子どもの頃からまるで男の兄弟同士みたいに仲良しでいつもいっしょ。社交ダンスではベストパートナー。買い物もジョギングも二人で。会話の連係プレーはどんなカップルにも負けない。知らない人が見たらどう見てもお似合いのカレシとカノジョ。

このままではいろいろとよくない。独り立ちするために、お互いちゃんとパートナーを探そうグレイ。わかったわ、じゃあまずお兄ちゃんからね。二人は早速公園に行き、そこで偶然出会った動物学者のチャーリー(ブリジット・モイナハン)にサムは一目惚れする。チャーリーもサムを見て同じ思いを抱き、あれよという間に電撃婚約。グレイは戸惑いつつも、チャーリーの人となりを知るうち次第に彼女に懐いていく。二人は親友同士になった。

サムとチャーリーの結婚前夜、グレイは花嫁の付き人としてチャーリーと式場近くのホテルに部屋を取った。夜中までパブで歌って飲んで、ベッドに辿り着いたチャーリーはぐでんぐでん。チャーリーを寝かせるために服を脱がせたり水を飲ませたりしているうちに、グレイもなんだか変な気分になってきた。色っぽいチャーリー。見つめ合って、キスして、それから…………からあああ!? グレイは顔を覆った。自分はいったい、なんてことをしてしまったのか。お酒のせい?お酒のせいよね?しかし鼓動は収まらない。鼓動は収まらず、どころかチャーリーを見るたび胸の高鳴りはひたすら大きく強くなっていく。えっ、もしかして、私って……。

 

 

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3.お手本にしたい脚本力

 

2006年の作品なんですが、当時日本での公開はされず、今年ようやくのDVDスルーでTSUTAYAでレンタル開始されたのが3月のこと。今もピカピカの準新作ですね。

確かにTVのスペシャルドラマでもいいかもしれないくらい地味なラブコメ作品ですが、出来の方はそう馬鹿にできないくらいよかったですし、なかなか手放しに面白かったです。

予告編もそうですが、序盤を見ているとこの作品はヒロインのグレイが兄のサムにベッタリで、そのサムが結婚することになったらめちゃくちゃ慌てふためいて、そんな二十いくつになっても兄離れできないブラコンガールの独り立ちを描く作品なのかなと思わされます。あるいは、性的マイノリティとしてブラコン道*2を貫くことに決めた妹の失恋譚なのだろうか。と、どこか下世話なことを思いつつ観ていると、なんとグレイは実は彼女自身も思いがけないレズビアンだったことが発覚。そっちか!って感じで、脚本の華麗なハンドルさばきに驚かされました。グレイがサムに「まるで仲のいいbrothersみたい」と言われるくらいベッタベタだったのは、まさに“兄弟愛”そのものだったというわけです。

さらにグレイがいわゆる《本当の自分》に気付いたきっかけがサムの結婚相手のチャーリー(female*3)で、酔っぱらったチャーリーとキスして自分がチャーリーに恋していることにまで気がついて、しかもチャーリーはそのことを覚えていなくてそのままサムと結婚して、とグレイはもうどの問題から対処していいやらわけが分からなくなっていきます。観ているこっちまで「うわ、まずどうすんのこれ…」みたいな気分になりました。こうなると飽きないいい脚本だっていうのがわかるんですよね。

 

 

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4.恋愛は人生の大事な“部品”

 

本作が面白いのはグレイが基本的には独り相撲状態にあることにもあります。

兄のサムとチャーリーの関係によって、グレイは兄をチャーリーに取られ、また初恋の相手をサムに取られるという構図になっているのです。三角関係は三角関係でも奇妙な二等辺三角形

兄やチャーリー以外の人間も、グレイの自覚とカミングアウトに対して非常に寛容で協力的です。結果として毒々しい展開にならない代わりに、グレイの問題はすべてグレイ自身に帰結する。グレイ自身もこの《自分の問題》のために奔走することとなります。

このいわゆる《相手ありきでないラブコメ》って日本でもなかなかないんですよね。むしろ日本の方がないかも。特に同性愛を取沙汰にすると、真面目でもネタ的でも、自分が自分を認められるかよりも(もしくはそれと同程度に)意中の相手に認められるかどうか(人としてか恋愛対象としてかのどちらか)が主な問題になる傾向が日本のサブカル作品などにはあるように思えます。それだけならまだいいのですが、その上で、意中の相手に認められさえすれば周りに否定されてもいいとか、自動的に自分でも自分を認められるとか、やはり《相手ありき》、“相手”という存在を中心に作品が回るんですよね。主人公個人の人生などの話にはなぜか帰結していきません。

これはまあそもそも、欧米と日本の恋愛観や性的マイノリティに対する意識の違いによるものだ*4、と言うこともできるのですが、本作の骨子は少し見方を変えると、大人の女性がとある気づきによって“二度目の思春期”を体験するというものなんですよね*5。青春とも差別化できる個人的な“思春期”を描くことは、日本だってやってきたことじゃないですか。だから同性愛を扱うにあたっても、もっとそういうふうに個人の問題や、個人と社会の関係に踏み込んだ内容のものがメジャーどころとして出てこないかなあと考えてしまいます*6

で、そういう作品の展望として、本作は非常にいいお手本でもあると思うのですよね。ポイントはやはり、《相手ありき》でないこと。相手ありきの《青春》もそれはそれで好きではありますが。

 

 

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5.ちょっとニコールにも似てる?

 

それにしてもヘザー・グラハムさんかわいいですね。金髪がおっそろしく綺麗なことを除けば正統派なかわいい系美人。直球でセクシーというよりもどこか野性的です。

エロさは彼女より目が小さいはずのブリジット・モイナハンの方がそこはかとなく上位。なんでかな。かっけーからかしら。

ヘザーがかわいいというより本作はグレイがまたかわいいですね。単純に僕の好みにドストライクなだけかもしれませんが。いいですよねえ、“奔走する女子”って。自分がゲイかもしれないってセラピストに打ち明けてみたり、ゲイじゃないかもしれないからって、目についた社内の男性をかたっぱしから逆ナンし始めてみたり。もちろん空回るからこそキュートなのです。グレイ本人にしてみたら空回るごとに追い詰められていくのですから溜まったものではないでしょうが、そこはコメディのさじ加減だと言っておきたいです。絶望的な悩みに向き合って当たって砕けてでも泣くほど諦め切れない姿がさらにスウィート。そうやって愛すべきヒロインというものは出来上がっていくのです。

もう一つ個人的注目はアラン・カミングですね。『スパイキッズ』初作のフループですよ。本作では俳優志望のタクシー運転手で、最初はグレイに気があったけれどグレイがカミングアウトした後は自ら進んで相談相手になるという超イイ人の役(しかし役名を忘れました…いい人すぎて…)。フループの時からなんとなく好きな顔だちだったんですが、本作でもっと好きに…と思っていたらこの映画録を書く前に『チョコレートドーナツ』で主演をやっているのを見て、めちゃめちゃかっこいいじゃんアラン・カミングと一気にファンにまで昇華した次第。そっちでやってるルディっていう役自体が切なくてかっこいい役なんですけどね。オカマさんなんですけどもう抱いて!ってなります。ハリウッドとクレヨンしんちゃんのオカマってどうしてあんなにかっこいいんでしょう。

しかし、まさか本作でグレイのためにオカマのふりをしてレズバーについていった彼が、そのまんまゲイバーで働くゲイの役をやる日が来るとは……って本人が一番数奇に思ってるでしょうね(笑)*7

 

 

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*1:グラハム繋がり

*2:畜生道

*3:チャーリーは男性名だが彼女の愛称。性格的にボーイッシュなところがあり、女の子っぽい本名を嫌っている。しかしサム同様異性愛者。

*4:日本のあの業界は社会問題とも親和性が低い。そう言いつつも風刺の忍ばせた作品ほど面白いものが多い。

*5:別に差別などの社会問題ばかりを取り扱う必要はない。本作のグレイは自分が多くの女の子と同じように白いドレスを着てヴァージンロードを歩くことや、子どもや孫に囲まれる未来などに憧れていた。人生が変わるということは、未来に見据えていたもののいくつかを捨てるということでもあり、そのつらさを乗り越えることは充分ドラマになり得るのだ。

*6:視線の先にP.A.WORKS

*7:そもそもバイセクシャルらしい。参考:アラン・カミング - Wikipedia