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case.728

映画とお人形ばかりで恐縮です

映画録69『死霊館』

わかっていることが一つだけ。本当の名手は必ずどこかで割り切っているものだということ。

たかが創作。たかが脚本。

たかが。たかがと。そしてそのたかがを全力でやってやろうと。

 

少なくとも“必死”と“全力”は一致しませんよ。余裕がなくて緊張しっぱなしのと、真にひたむきであるということとは。

今の自分はどっちなのでしょう。余裕がなくてはと言いながら、無理をして余裕ぶることに結局必死になっているだけではないか。

特にナイーブではありません。もしこれがナイーブだとしたらいつもナイーブですね。なかなか余裕を持つのが苦手な性分なもので f(^^;)

もうちょいがんばらねば。

 

※case.728の映画録は、5段落前後でまとめる既観賞者向けの参考記事を目指しています。ネタバレ・解説記事ではありませんが、物語の中核には触れているので未観賞の方はご注意ください。

 

7月24日 死霊館

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「隠れんぼしようよ」

 

1.“館もの”がお好きな方に。

 

「館もの」と名のつく脚本には二つありますよね。

一つは、大嵐や道路の寸断で陸の孤島と化した「館」に閉じ込められ、一人一人殺されていく中で犯人を捜索する推理サスペンス。

もう一つは、引っ越し先の「館」に住みついていた悪霊や悪魔に悪戯され、それがだんだんエスカレートしていって身も凍るような体験をさせられるスリラー(ホラー)。

どちらにもそれなりに起源や歴史があって、本格や古典といった言葉を伴って各々の普遍的魅力が支持され続けています。かくいう僕も目がないというほどではありませんが往々にして惹きつけられます。推理サスペンスにもホラーの方にも。一つの建物が象徴的に作用してる状態っていうのが面白いんでしょうか。家というのはそれだけで結界なのだ、という考えが自然に思い浮かびます。踏み込むだけで殺されたり呪われたりするんですからろくな“結界”ではなさそうですが(笑)

さて、本作はこの二つの館もののうちの、ここで言う後者に当たる作品です。それもかなりコッテコテの部類。しかし監督は『ソウ』や『インシディアス』でおなじみのジェームズ・ワン。本格や古典はコテコテなほど、ならびに時代が新しいほどハードルが上がるものですが、逆にいえばよくできていればいるほどまるごと面白い。そして本作は掛け値なしにまさしくよくできていて面白かったです。「ホラーの館ものが観たい気分?じゃあとりあえずこれね」ってもう即答しちゃう部類に入るんじゃないかと思いました。

 

 

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2.あらすじ ~庭“憑き”一戸建ての格安物件~

 

本作は実在の人物が語った実話に基づく。

エド&ロレイン・ウォーレン夫妻(パトリック・ウィルソンヴェラ・ファーミガ*1)は、アメリカで最も有名な超常現象研究家である。これは彼らが調査・解明してきた超常現状の中で、「最も邪悪で怖ろしい事例」として封印されてきた衝撃的な事件の全貌に当たる。1971年の出来事だった。

5人の娘を抱える若きロジャー&キャロリン・ペロン夫妻(ロン・リビングストン、リリ・テイラー)は、ロードアイランドの田舎に少し古いが大家族が住めるだけの広い屋敷を買って移り住んだ。背伸びをしてどうにか手に入れた念願のマイホームに浮かれる一家。しかし入居した翌日から、家の中で彼らを奇妙な現象が襲うようになる。じわりじわりと、忍び寄るようにして、“それ”は家族の生気を少しずつ削り取っていった…。

 

 

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3.怖いのに圧倒的安心感

 

とりあえず、怖かったです。つまり、怖かったです(ダクソのメッセージ風)。

怖いものを怖いと感じるにあたって、その仕組みが必要なものと不要なものが怖いものにはあります。仕組みがなくても怖いのは、人間の死体やモンスターや、目の前で起こる爆発などの映像。たいていインパクトはありますが、直球だと面白味に欠けて、直球でなくても印象は長持ちしづらいものです。その点、仕組みが必要な恐怖は概ね地味なものですが、仕組みが要求されるだけあってカチッとはまったときは面白味も印象の強さも段違い。

仕組みとは何のことか。つまりは演出です。

本作にはインパクトによる怖がらせは本当に数えるほどの要所にしかありません。一方、演出による地味ぃ~な怖がらせは、ふんだんに散りばめられているというか、万遍なく敷き詰められています。またその一つ一つがうまい。うまいとしか言いようがない。うん、うまい演出だ。いかにも演出って演出だ。ŧ‹"ŧ‹"(●’ㅂ’●)

どううまいかは見てもらうのが一番早いですが、「ここで、異音!」「ここで、扉!」「ここで、無音!」みたいなのの応酬で、思わずワン監督わかってるぅ!と幾度となく叫びたくなるような感じです。すごい抽象的ですが、メタ的には安心感すら覚える正統派的なクオリティだったということでどうかひとつ(何をだ)。

怖いというか厳密には、終始不穏さを醸し続けてくる感じなんですけどね。ただそれって劇中人物が味わっている“不安”にかなり近くて、感情移入も容易と言えるわけです。

 

 

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4.コテコテ×コテコテの新鮮脚本

 

演出はある意味即物的なテクニックです。全体をつないで印象を作り出すのは脚本の力ですが、これもまたうまかった。いかにも館ものホラーの脚本って脚本です(リゴロー)。

冗談抜きであまりにも“いかにも”なコテコテっぷりなのでそれ以上言うことが特にないのですが、それでも面白いと感じるのは、全体のテンポの良さと描写の深さのおかげでもあります。描写というのは登場人物、キャラクターの話です。そこへ手抜かりのない演出が加われば、完成度においてはもう怖いものなしですね。

ウォーレン夫妻とペロン夫妻が接触してからの後半部分はちょっと変化球。どちらかというと昨今人気上昇中の悪魔祓い展開へ。その展開の内容自体は、「悪魔憑きもの」においては『エクソシスト』から連綿と受け継がれているお約束展開(ゴーストハンター的な描写もありましたが)だったのですが、「館もの」との組み合わせは地味に珍プレーです。

考えてみれば、確かに現代ではいいかげんマンネリでうんざりしてくるのって、幽霊や悪魔の存在を頭っから否定する警察や自称専門家や、特に霊感もないインチキ霊媒師の類のせいで事態が悪化していくパターンという気がします。わたし透視ができるんですというのもそれはそれでうさんくさくて気が抜けますが、そのうさんくささが払拭されていくという展開の方が断然面白いのかも。

その結果としてか、本職のエクソシストの到着が間に合わないから一応専門家のミスター・ウォーレンが見よう見まねで初めての悪魔祓い、という展開も熱くてなかなか。その成功を中途半端にしておいて、最終的にペロン夫人による母の愛が決め手となる、というシメ方は実に賢い采配で、これまたうまいなと思ってしまいました。途中のキャラ描写もここへ効いてくるというおまけつき。なんというか純粋に脚本の密度だけで言えば『インシディアス』のときと段違いのよさで、同じ監督なのに何だこれってなります。*2

 

 

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5.なべて“墓場”は死者の家

 

そういえば怨霊のシステムはちょっと日本の『呪怨』っぽいですね。もちろんあれも館ものの一つです。日本には地縛霊という概念があるので館ものが自然にやりやすいんですが、本作は“館”ではなく“土地”を媒体にして「土地を奪う者への呪い(黒魔術)」が発動するという欧米らしい理由づけから自然と館ものの設定へ帰結させています。こう言うところも抜かりなし。

ちなみに確か本作の「魔女」は怨霊を取り込んではいなかったように思います。ある程度は影響力を持っているようにも見えましたが、概ねは銘々の意志(遺志?)で動いてる感じ。どちらかといえば《群霊(レギオン、リージョン/Legion)*3》はキリスト圏の概念なんですけどね。

アナベル人形はしかし隷属していたようにさえ見えたのですが、あの後何事もなくガラスケースに戻されて浄化されたんでしょうか。実在の人物が過去の実話として語っている以上、デッドエンドはあり得なかったわけですが、そこは微妙なもどかしさが残ります。オルゴールも動いてましたし、霊がバラバラなのだとしたらまだ曲者が残っていてもおかしくない?まああの後で要請しておいた本職エクソシストさんが来て全部綺麗にしていったんでしょうけど。それでもとりあえず、《あの部屋》で一晩過ごしたり記念撮影したりだけはしたくないなと思いました。

でも、ジュディ・ウォーレンちゃんと《あの部屋》にまつわるスピンオフとか、創作していいならちょっと見てみたいかも。

 

 

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*1:役は実在の人物だが役者はもちろん本人ではない。

*2:もしや悪いのはワネルの方…?

*3:マルコによる福音書第五章「我が名はLegion。我らは大勢であるが故に」