ドルシネ・サロン第3回『グランド・ブダペスト・ホテル』
※要注意
- ドルシネことcase.728の《ドールdeシネマパラダイス》は、我が家の人形姉妹の歓談に仕立てた映画感想エントリです。映画をそこそこ真剣に語りながら女の子たちが適当なおしゃべりをします。
- あらすじ解説記事ではありませんが、ネタバレはあまり自重しません。
- ドールたちの大半は商標のあるものですが、キャラクター(名前、性格等の設定)は当ブログオリジナルにさせてもらっています。詳しくはブログ紹介記事を参照のこと。
グランド・ブダペスト・ホテル / 作品情報
原題:The Grand Budapest Hotel
2014年/アメリカ
上映時間:100分
映倫区分:G
監督:ウェス・アンダーソン
脚本:ウェス・アンダーソン
原案:ウェス・アンダーソン、ヒューゴ・ギネス
製作:ウェス・アンダーソン、スコット・ルーディン、ジェレミー・ドーソン、スティーヴン・レイルズ
音楽:アレクサンドル・デスプラ
撮影:ロバート・D・イェーマン
編集:バーニー・ピリング
キャスト:レイフ・ファインズ、トニー・レボロリ、シアーシャ・ローナン、エイドリアン・ブロディ、ウィレム・デフォー、ジェフ・ゴールドブラム、ハーベイ・カイテル、F・マーレイ・エイブラハム、マチュー・アマルリック、ジュード・ロウ、ビル・マーレイ、エドワード・ノートン、ジェイソン・シュワルツマン、レア・セドゥー、ティルダ・スウィントン、トム・ウィルキンソン、オーウェン・ウィルソン
(あらすじ/映画.com版)
「ムーンライズ・キングダム」「ダージリン急行」のウェス・アンダーソン監督が、高級ホテルのコンシェルジュとベルボーイが繰り広げる冒険を、名優レイフ・ファインズを筆頭にオールスターキャストで描いた。ヨーロッパ随一の高級ホテル「グランド・ブダペスト・ホテル」を取り仕切り、伝説のコンシェルジュと呼ばれるグスタヴ・Hは、究極のおもてなしを信条とし、宿泊客のマダムたちの夜のお相手もこなしていた。ホテルには彼を目当てに多くの客が訪れるが、ある夜、長年懇意にしていたマダムDが何者かに殺害されてしまう。マダムDの遺産をめぐる騒動に巻き込まれたグスタヴ・Hは、ホテルの威信を守るため、信頼するベルボーイのゼロ・ムスタファを伴い、ヨーロッパを駆けめぐる。
(あらすじ/Wikipedia版)
1930年代、仮想の国ズブロフカ共和国が物語の舞台である。また、時間軸は1930年代と1960年代、現代の3つである。
名の知れたホテルのコンシェルジュであるグスタヴ・Hはマダム・Dと一夜を共にする。その後、マダム・Dは何者かに殺されてしまう。彼女は遺言で「リンゴを持つ少年」の絵をグスタヴに譲ろうとした。しかし、マダムの息子ドミトリーはグスタヴに母を殺した罪を着せて復讐しようとしていた。グスタヴはドミトリーに絵を奪われないように、ベルボーイのゼロとその思い人のアガサの力を借り、ヨーロッパ大陸を飛び回るのだった。
(以上、映画.com&Wikipediaより)
映画『グランド・ブダペスト・ホテル』予告編 - YouTube
今日のメンバー
長女・シェツゥ(個性派に目がない)
おすすめ度:★★★★★
一言感想:とても大切にしたくなるような“おくりもの”をいただいた気分。ウェス・アンダーソンは天才。
三女・フィセ(作る人の温かみを感じたい)
おすすめ度:★★★★★
一言感想:切なさもあり毒もありますが、すべてがどうしようもなくラブリーでした。
五女・ラジー(楽しくてわくわくする作品が好き)
おすすめ度:★★★★☆
一言感想:お人形さんの世界みたい!
十二女・くうり(映画はパワー)
おすすめ度:★★★★★
一言感想:延々ため息ばかり出た。すごすぎてもうなにがなにやら……。
上二人のために借りてきたようなものです。
礼は言っとくよ、おじき。
『ムーンライズ・キングダム』も早くな。
本当にありがとうございました^^
ノートパソコン、最後に動いてよかったですね。
奇跡の二時間だけ復活でしたね。あの後完全にグラボが逝きましたから。
個人的にはTSUTAYA TVがまだWin8.1非対応だったことの方が奇跡に思えますけど。
まあキャンペーンで無料配信してくれたんだから、その件はトントンだよ。おじきのWin7の方のデスクがHDCP積んでないのも悪い。
そんなことより映画の話をしよう。ウェス・アンダーソンにはみんなぶったまげたよね。
すごく楽しかった!☆彡
そうですね。何をとってもまずとにかく楽しかったです。シナリオも、キャラクターの内面も外面も、台詞回しも。何より一枚一枚の“画”が。
これがつまり作り込むっていうことなのか!っていうのが素人のあたしでもわかるくらい前面に溢れてるんですよね。適当に停止した画像を切り取るだけで必ず絵になりますし。ていうかほんのワンカットにそこまでするかっていう“画”がひっきりなしに出てきますよね。
ただ絵になるというか、大胆であからさまな“計算性”に溢れた画だよね。ノスタルジックでアカデミック、何より偏執的であることがとにかくわかりやすい。そのわかりやすさもまた、ウェス・アンダーソンの魅力であり強みの一つかもね。とてもはっきりとした厚みのある“皮”のおかげで、その下にありえないほどいろんなものが層になって折り重なってることまで“触れてわかる”んだ。正直、頭をからっぽにして観てもその多層感が受け取れてしまうと思う。より抽象的に“質量”と言い換えてもいいね。
深みも間違いなくありますけど、やっぱり“厚み”という表現を使いたくなりますよね。
うーんと……難しいことはよくわかんないけど、劇の中の人とか劇を作ってる人とかが、いっぱい考えてるってことかなぁ?
そうですね。本当に焼きたてのクロワッサンみたいな映画です。外ははちみつがかかっていて、中はどこまでもふわふわで、甘くて香ばしくて、ほろ苦さもあって。食べると幸せを感じるだけでなく、あたたかくて優しい気持ちにもなれるんです。
その上で調和。ハーモニーっつーんスか?(億康感)
欲張りすぎて一つ一つの要素が薄味になったり相殺したりっていうよく起こる問題とはほぼ無縁だったね。
うんうん、なんとなくわかった!キョウカン?ラズもできるよ!フィセおねえちゃんにも、シェツおねえちゃんにも!
あたしもわかるな。特にシェツゥ姉さんの言った「頭からっぽにしてもわかる」って話。ウィットっていえばいいんですか?小難しそうな雰囲気とかも全部ひっくるめたそういう感じのが、満腹感みたいにしみ込んできて、全然疲れるような感じじゃなかったんですよ。
実際これが細かく言葉にし始めると、二言三言でさらりとは片付かないから恐れ入る。アンダーソン監督自身のユーモアだけでなく、いろんな知見によっても本作が成り立っている証拠だね。正直うちらやおじきの聞きかじり知識なんて箸にも棒にもかからないレベルだよ。
そうだったのか……(〇。〇;)
ハハハ(;^-^)……確かに、ドルシネに持ってくると聞いたときはどうしようかと思いましたね。
そのくせ、「観ればすごいのはわかる」から、タチが悪い(笑)とまあ、大まかなところはこう気合が入っちゃうけど、実際細かいところはどう面白かったかを気軽に話していけばいいと思うね。限りある人生、そういう自在さが大事だって、本作も言ってたようなものだからさ。
どんな映画ですか?
映画サイトやWikipediaの紹介を読むと、ムッシュ・グスタヴが主人公のような書かれ方をしていますが、物語はベルボーイ・ゼロの視点で進みますよね?
さらにそれが、30年後の世界でホテルのオーナーになってたゼロ(ムスタファ)が、ある未来の大作家相手に昔話として語る形になってる。
そして「語られた」という体験談をその作家さんが現代になって出版することを通して読者の方に語り聞かせるという形です。とはいえ、語られる本筋の物語をよく思い返すと、確かに半分以上グスタヴさんのお話になってることに気がつきますね。ゼロさんの物語である部分もありますが、彼はあくまで語り部として最適な立場にいるキャラクターです。
この微妙に主役のはっきりしない群像劇っぽさはいいよね。単純に語り部と主人公が違うおかげで物語の世界にほどよい広がりが見えるし、それって本作、というかウェス監督ならではの箱庭感とそれとなくマッチしてもいるよ。
ゼロさんはワトソンくんっぽい?
ああ、そんな感じかも。関係ないけどジュード・ロウ出てるし(笑)、いや、しかもロウの役は30年後の世界で物語を引き継ぐ若い作家なんだよ。そこで聞かされた話を年取ってから出版するんだから、そこもまさにワトソンだ(笑)。
そんなふうに言われちゃうと、本筋の内容がサスペンス仕立てなのもシャーロック・ホームズみたいって言いたくなっちゃいます(笑)
実際はもっとコミカルで、コミックリリーフというか、ともすればおちゃらけてるんですけど。
おちゃらけてるね(笑)
とはいえこの“おちゃらけ”がないと始まらない。なんやかんやで本作は常に深刻な要素を抱え込み続けている。大事なことほど陽気に伝えようっていうのは、一つの大切な精神性であって、そのまま人の生き方の一つだったりもする。っていうのを本作はまたこれもわかりやすく指南してくれてる。ちなみに説教臭くはない。常にやさしい。
あたしらがそれを知ってるのは伊坂幸太郎からですね。彼はロックの精神でそういうことをよく伝えてきますけど、本作は時代の方がロックだからファンシーにやろうってスタンスなんでしょうか?
そういう解釈もありかもね。いわばウェスも伊坂も“粋”だから*1。過剰に理屈っぽく難しいことなんて考えてはいないんだ。
ロックって戦争?
ひとことで言ってしまうと各所から怒られそうではあります(^^;)
ただ、戦争が破壊を象徴するもので、平和や調和を乱すものを直視する行為がロックの一要素だとしたら、関連性は避けて通れない気がします。
ラブアンドピースですからね。あたしらも親父もそのくらいのことしか知らないにわかですけど。
そうそう、ちゃっかり絡んできてたよね、戦争が。どうやらウェス監督的には一番表現したかったことらしいよ。箱庭的な人間世界と、ヨーロッパの歴史をひたすら荒らしまわった戦争というものの対比。ズブロスカという国は架空にものらしいけど。
反戦や平和主義の主張が明確にされていた、わけではないと思います。戦争は戦争として、歴史上に確かに存在するだけのものであって、ただそれと対比にすることで、人間存在の無為さやもの悲しさなどの方を表現していたのでしょうか。
善や悪や人間的な悲喜こもごもで構成された世界に対して、戦争は圧倒的な破壊をもたらすものですよね。戦争の前では、どんなに愛しくても小さな世界はまるごと押し流されてしまう、ということなんでしょう。
ちょいちょい毒や苦みがあってもほほえましい世界、って感じの描かれ方をしてるのはそういうことでしたか。
マクロやミクロでいろんな調和をはらんでるのが、どうやらウェス・アンダーソン節というやつらしいよ。『ファンタスティックMr.Fox』でもその節はあった。一番大きい対比が戦争と箱庭的社会じゃなくて、一段階小さく“社会と家族”って感じだったけど。
ラズもきつねのお父さん大好き!
ラズちゃんは大事なところをズバッと突きますね。
えへへ(„〇∀〇„)
シェツゥもパパ大好き!きつねの方!
思い付きで身内いじりを始めるのはやめましょうね、一番上のお姉ちゃん……。
あたしも『ファンタスティックMr.Fox』の話はしてみたかったんですよ。
あたしたちがウェス・アンダーソン監督作に触れたのは『Mr.Fox』が初めてだったので、《常に絵になる画》の方の“ウェス節”はあのストップモーション・アニメのために取り入れたものだと思ってたわけです。それを監督はほとんどまるごとこの『グランド・ブダペスト・ホテル』っていう実写映画に持ってきて、完璧に順応させてるんですよね。
『Mr.Fox』観てたからこその驚きだね。ちなみにどうやらその前作である『ダージリン特急』以前の予告編を見る限り、まだ本作ほど“完璧”な個性が映画にあったわけではないみたい。もちろん、『ダージリン特急』より以前から『Mr.Fox』を跨いで連綿と続いてる個性もあるはずだけどね。とはいえ、つまりウェス・アンダーソンは、あのストップモーション・アニメで初めて確立したものを自分の映画全般における汎用スキルにまで昇華させたと言えちゃうわけだ。恐ろしいのはこの変化がまたすごくわかりやすいのに全然安っぽくないことだよ。
いわゆるアニメの実写化だと、邦画でよくあるのは“ストレートな実写化”を実写の中へさらにストレートに配置するような映画で、あんまり言いたくはありませんが、コスプレ大会の記念ビデオみたいなものですよね。逆にアメリカのX-MENやアイアンマンのように、お金やCG技術をつぎ込んで実写へ限りなく近づけることもできますし、現代の技術ならティム・バートン監督のように一から実写的なファンタジーを構築することもできちゃいます。でもこの映画はそれらのどれにも当てはまる気がしません。実写から遠いようで近いようで。人も含めてどこか作り物めいているのに、作り込みのおかげか、とても重厚で繊細な現実感もあるみたいでした。
よい子の筆頭破格無双のフィセちのおくちからコスプレ大会とは……。
そんなところ拾わないでください!
予告編だけ観た限りでも『ムーンライズ・キングダム』で同じ個性が発揮されてるっぽいです。本当に『ファンタスティックMr.Fox』を汎用スキルにしちゃったんですね。なんていうかあたし、実写のはずの役者がパペットに見えてきましたよ。
わかるよ。おじきが『Mr.Fox』の方の映画録で言ってたね、ストップモーション・アニメではキャラクターに命が吹き込まれる瞬間が見えるって。『グランド・ブダペスト・ホテル』では、役者が一旦“役”という名のパペットになって、再度キャラクターとしての魂の吹き込まれる瞬間が見えるのかもしれない。そして今それを見せられるのは、きっと世界でウェス・アンダーソンただ一人だよ。根拠はないけどそこまで思っちゃうね。
キャストがとても豪華です。好きなキャラと名シーンは?
『戦場のピアニスト』でおなじみ、エイドリアン・ブロディが出てたね、フィセち。実はウェス監督作には常連みたいよ?『ファンタスティックMr.Fox』の声の出演も含め。
今作では御曹司で口ひげの黒幕さんでしたね(笑)
彼の出ている名場面といえばクライマックスの銃撃戦だと思いますけど、なんとなく個人的には絵が盗まれていることに気づくところが好きなシーンです。
今気づいたんかい!みたいなね。
こっちはやっぱり銃撃戦。なんだろうね、あの緊迫感とは別にひやひやする感じ。めっちゃあぶなっかしいけど誰も死なんのかいいぃ!みたいな。
ドミトリーさんぱんち!ぱんち!ぱんち!(o`・ω・)=O
予告編にもあったあの《連続顔面右ストレート》だな。確かに笑った。
悪役といえばウィレム・デフォーの殺し屋ジョブリングとセットですね。葬式のシーンで初登場だったのにエイドリアンに気を取られて「あれ?なんか今ヘンなのいなかった?」ってなったのが、今はむしろ妙に印象的です(笑)。あの後あんなに活躍するとは思ってなかったからですかね?すごいなにげなく三連パンチにも参加してましたし。
『アンチクライスト』で散々な目にあってた彼しか知らんかったからね我々。散々な目にあわせる側に来て生き生きしておった。
スキー上手!
うーん、やっぱジョブリングといえばそのシーン言っときたいよね。明らかに彼自身が演じてはないけど(笑)
あのシーンの少し前の給油のくだりがあたし大好きです。タダモノじゃない感じとなんかよくわかんない感じの二重の意味で「なんだコイツ……」って言いたくなりました。あの一回開けるとめんどくさそうなポケットからスキットルを出すところもいいですよね。仕事前の儀式なんでしょうか(笑)
彼はペルシャ猫さんに酷いことをしました。映画であんなに「ん?!?(〇v〇)!?」ってなったシーンは久しぶりです。
死後も扱い酷かったね、ペルシャ猫。なぜかウェス監督の映画は動物に厳しいらしい(笑)*2
まあゴミ箱は仕方なかったんだけどね。コヴァックスさん立場的に確実に死ぬし。
ナセル・アリも死んでましたね(笑)
ありゃ本作と全く関係ないことでビビった。奇縁だよ。おじきが更新サボってるけど『チキンとプラム あるバイオリン弾き、最後の夢』これの直前に観たばっかりだったっていう。こりゃもう彼の次回出演作は必ず観ないとね。というか『チキンとプラム』のサロンをぜひやらねば。
縁といえばまたシアーシャ・ローナンです。といっても、本作のタイトルを知ったのは監督からじゃなくて彼女の出演予定からだったんですけどね。どうやら父さん、本気で追っかけることにしたようです。
『ザ・ホスト』は観ないらしいけどね。まあそれはともかく。
彼女の演じるアガサはわりと記号的に生きてるキャラだった気はするね。存在感はすごくあるのに。
そういうところをさらりと流すのもウェス・アンダーソン節かもしれません。またサロンの最初の方で話したように、本作はグスタヴ・Hさんのお話ですし。これがゼロさんが主人公のお話だったらもっと彼女にも厚みを感じられたかもしれません。とはいえ、現状のゼロさんに厚みが感じられるのはアガサさんあってこそだと思いませんか?
ラズねラズね、グスタヴさんがゼロさんに「口説かないで」って何度も怒られるのが好き。そこを思い出すとアガサさんかわいいってラズも思うの!
そうだねえ。アガサが絡んでるときだけゼロは「ロビーボーイ」じゃなくて一人の人間だったんだ。歳をとった彼が「ホテルを残したのはアガサのため」って言うシーンはグッときたね。
アガサさんのことが本題のときだけはゼロさんが主人公のようでした。それ以外は「ロビーボーイ」っていうグスタヴさんの片腕で、グスタヴさんと親子みたいなセットの「息子」のような立ち位置で、そして物語の陰たる語り部さんなんですよね。
あれ?じゃあゼロ役だけがトニー・レヴォロリっていう新人俳優なのは、もしかして演技で強い存在感を出さないようにするためとかだったりしたんでしょうか?
かもね。台詞も感情的じゃなくて端的なものが多かったし、結構ロボット的な演技をやらされてた。まあそれがとても語り部、もとい“観測者”としてハマってるし、ウェス監督のキャラメイクのおかげで最終的に十分すぎる存在感を得ていたわけだけども。
そうか、あたしたちはその“観測者”の方に感情移入して観賞してたんですね。だから、一方で主人公のはずのグスタヴ・H氏が、うまく言えないんですけど、なんというか“見られている人”って感じに見えてたんですね。
それでいてやはり魅力的な人でしたね、グスタヴ・Hさんは。変な人ではあるんですけど。
そしてやっぱり主人公。思い返すと名場面はキリがない。ていうか彼の台詞回しがいちいち異様にオシャレでユーモラスで軽快すぎる。そのせいだ。
悪い人ではないんでしょうけど、ときどき表面だけ紳士なままワルガキっぽくなるのがなんとも……(・・;)
しかもマダムキラーでしたね。84歳て……。
老女狙いなのは実益兼ねてるんだろうけどね。アガサちゃんも口説かれてたし、本来の守備範囲は揺りかごから墓場まで。いや揺りかごはやばいか。
やばいのはあんたの言動だよ……。
こほん。えー、とても行動力のある人ということですね。彼に気に入られたゼロさんもそうでしたが、とにかく思い切りが良すぎます。誰も見てないから絵を持っていこうだとか(笑)
プリズン☆ブレイク!
本作屈指の一大名シークエンスだね、投獄から脱獄まで。ホントはもっと区切るべきなんだろうけど、あえてひとかたまりで取り上げたい。とりあえずハーヴェイ・カイテルがあまりに強そうで笑った。
でもあれとやり合ったんでしょうか、グスタヴ氏。
可能性はある。そしていずれにせよ予想通りではあるけど仲良くなっててさらに笑った。でも脱獄し始めるとは思わなかった。メンタル豆腐なのに心臓は鋼でできてるよね、グスタヴ氏。
緊迫感のせいか、映像的にコミカルなのがさらに際立ってたように思います。さらにそのコミカルさのおかげで気がゆるんできたところで、あっさりお一人……。
「これは引き分けだな」じゃねえよ、ですよね(笑)。他でも血なまぐさいところで妙に容赦がないんですけど、そのタイミングとか、全体との調和は乱さずにおけるバランス感覚とかは絶妙だったと思います。あ、脚本の話です。
そして脱獄終了したところで合流したゼロに対し“必需品”を用意してないことに怒りだすグスタヴ氏。「お前は何のために自国を捨てて文化的なこの国に来たんだ!」って、今そんなこと話してる場合じゃないだろ!感がすごい。安定の豆腐メンタルと鋼の心臓。
一種のワーカホリックでもあるんでしょうけどね。香水なしじゃお仕事ができませんし、本当はお仕事のためだけに生きている人だったのかもしれません。ゼロさんが亡命してくる前のことを聞いてからの切り替えはとてもはっきりしていましたし。
サイレンにも反応してましたから、危機管理能力がない人でもないんですよね。確かに心臓は鋼のようです。
言い残した見どころ、大事なことなど
ラッちゃん、Go!
自作の詩の朗読は譲れないムッシュ・グスタヴ!でも朗読中従業員は朝ごはん食べてよし!警察が来ても署まで同行せず普通に逃げるムッシュ!投獄されても朝礼用に詩を送ってくるムッシュ・グスタヴまじムッシュ!刑務所ではスープ配るムッシュまじコンシェルジュ!ホテルマン精神で顔に傷のある大男さんのハートもげっちゅ!でもナメられたらやばいって初日は同室組と大立ち回りでフルボッコのグスタヴさん根性だけは認めてもらったみたい!アガサのケーキおいしそう!そんな脱獄で看守起きんのかい!脱獄後のプランなし!どうしてブレーキのないそりで追いかけようと思ったの!?ホテル潜入時ケーキ持ちすぎぃ!あとはえーとえーと、ロビーボーイってずっと書いてある!
ま、まあだいたい言い尽くしったぽ……いや無理か(^_^;)
細かいことを話そうと思ったら、この作品は本当に盛りだくさんすぎてどうにもならないな。
そうですね。ただ、最後にやはりエピローグのクローズアップはしておきたいかもしれません。いろいろあったわりにあっさりハッピーエンド、かと思いきや、とても悲しくて切ないラストでした。
でも納得できないわけじゃない。自然と言うのは少し違うかもだけど、あれはああいうものだっていう感じがあっさりとしてしまう。本作における最後にして最大の“毒”だよ。
にぎやかな思い出はすべて過去であり、強大ないろいろなものによって形あるものは廃墟に変わる。避け得ないその現象は、ドラマチックでも何でもなくて当たり前だよってことなんだろうね。
戦争も病気も、あること自体は否定できないですものね。その上で、どうしようもなく強大で悲しいものであることを静かに肯定しているみたいで、冷たいながらもとても身が引き締まるような感じがしました。あのラストを通して本作が言いたかったことは何でしょう?
戦争の悲哀の肯定だけでもいいのかもしれないけれど、自分はやっぱり、そういう現実を認めた上でのグスタヴ・Hによる生き方の一つの提案なんじゃないかと思う。というのも、あの脱獄直後にグスタヴ氏がゼロに食ってかかるシーン、劇中の状況と普通に照らし合わせるとツッコミどころ満載なコミカルなシーンに見えるけれど、グスタヴ氏がその鋼の心臓をもって状況に価値観まで飲まれない生き方を顕示しているように見える。彼が指摘したのは要するに、いかなる時流にあっても文化的に生きることをやめてはいけない、ってことだったんじゃないかな。なんていうかそれってすごく“粋”な考え方で、“ロック”だと思うんだよ。
強くて大きな流れ、たとえば戦争とか、そういうものの中では文化的な生き方なんて押し流されてしまうけれど、それでも人間である以上は忘れたくないことですよね。それにそうやって生きたこと自体は、戦争や病気によって未来を壊されたとしても、過去としては否定されないんですね。
監督的にどっちが先なのかまでは、うちらにはわかんないんだけどね。戦争が悲しいから人が文化的に生きるべきだって話なのか、文化的に生きる人々に無慈悲な破壊をもたらす戦争は悲しいものだって話なのか。まあタマゴとニワトリだから、どっちもでいいと思いたいところさ。
そうですね。少なくとも最後の最後に思い出すのは、本作の時系列の入れ子構造です。ああして過去の事実が現在の誰かに受け継がれていきます。「作家が国の宝だ」と書かれている冒頭のモニュメントは、それがとても大切な真実だというお話にほかならないんですよね。
とりとめもない話が今日はきれいにまとまりましたか?
本作自体が気持ちよくまとまってるおかげさ。ちなみにこのへんで終わっておくと、この第3回までサロンごとの文字数が毎度1万7千代なんだぜ*3。
なんと!?
本当にキリがいいですし、ここまでにしましょうか。今日の映画は本当にいい映画でした。
ではラズちゃん、次回予告をお願いできますか?
次回はアニメ映画!『アシュラ』だよ!
ってまたすさまじいの持ってきたな……一応全年齢だっけ?
文化的に生きるも何も飢餓でそれどころじゃなさすぎる、っていうカウンターを狙うんだとさ。
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*1:Rotten Tomatoesからの受け売りで恐縮です。この表現が格別に的を射ていると思ったので。
*2:『ファンタスティックMr.Fox』の話ではなく『ムーンライズ・キングダム』の前情報。ちょっとそこだけのネタバレを見てしまいまして(^^;)。