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case.728

映画とお人形ばかりで恐縮です

劇場映画録『ゴーン・ガール』

映画

※ネタバレ注意。具体的な言及は避けていますが、結末について触れています。

 

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 その言葉はぼくをかっとさせた。おそらく彼女のいおうとしていることがほんとうはわからなかったからかもしれない。近ごろ彼女はますます率直でなくなって、いいたいことをいわなくなった。なんでもほのめかしていう。遠まわしにいっておいて、自分がどうおもっているかぼくにさとらせようとする。ぼくはそれを聞いてわかったふりをしているが、内心では、自分がまったく要点を理解していないことを彼女にけどられはしないかとびくびくしている。 ――チャーリー・ゴードン

(『アルジャーノンに花束を』より)

 

「ことわざ」という言葉自体が死語になりつつあるのではないかなんて妙な疑心に駆られる今日ではありますが、ながらに好きなことわざの一つが「大山鳴動して鼠一匹」。いくら大騒ぎしても結果はちんまりしたものだということの例えですね。

類義の言葉としては「杞憂」、「呉牛月に喘ぐ」、「蛇が出そうで蚊も出ない」、「気で気を病む」、「捕らぬ狸の皮算用」、それにことわざではありませんが「世はすべてこともなし」、さらに元の言いかえを「大山鳴動して一鼠も出ず」なんていうこともあって、まあわりかしこの「取り越し苦労系」のことわざは豊富。その中でも一番好きということです。

 

大きな山が揺れ動いたのに結局出てきたのはネズミ一匹だった。

この話の捉え方次第で、世の中の捉え方も変わってきます。

いかに結果が取るに足らなかったとはいえ、本当に何もなかったわけじゃない。ネズミ一匹分の確かな結果は残ったし、事実経緯として「大山」は「鳴動」した。

それを認めた上で、しかしやっぱり取るに足りない結果であれば忘れ去られるだろうし、「大山鳴動」まで含めてただ過去の一幕となる余地がある。そして何を基準に結果を見るのかを問えば、偉人の業績も「鼠一匹」、女性の涙も「鼠一匹」、STAP細胞の行方も癌の特効薬も「鼠一匹」と呼べる。結局は取るに足りないかもしれない、と思う一方で、確実に存在するネズミでもあります。

たかがネズミ一匹。されどネズミ一匹。今の日本の普通の家の中でネズミを見つけたら、一匹でもそりゃあ大騒ぎするでしょう。ただ一概に平気な顔で「世はすべてこともなし」と言えてしまえない❝容易でなさ❞と、同時に世の無常さやワビサビへの確信がこのことわざにはある。その点が面白くて好ましいのです。

 

 

『ゴーン・ガール』は仕組まれた大山鳴動。

そして鼠一匹ほどの結果に終わります。*1

しかし、居宅のベッドルームに堂々居座ることになった巨大な❝ネズミ❞に、家人の心の平穏は引き続き脅かされ続けることとなる。もとい、はたして帰って来たのは鳴動を収めた静かなる❝大山❞ではないのか、❝ネズミ❞は実は家人の方で、一度迎え入れられ、野放図に樹木をかじりすぎたがゆえに❝鳴動❞に遭って追い出されたけれど、しかし想定外に荒れしまった山の身勝手によって整備士として再び取り込まれた、と見ることもできるでしょう。

世間から見れば結末はすべてこともなし。けれど間違いなく大山鳴動ほどの過去が起き、凶暴なネズミ一匹がいぶりだされ、そして現在と将来にまで残った。つまり、映画ほど過激でなくとも現実の社会のあれやこれや――仕事や勉強、深入りした友達や恋愛、病気や冠婚葬祭――もつまり“そういうもの”かもしれなくて、そして少なくとも「結婚」というものは、“そういうもの”の一番わかりやすい例えなのかもしれない。

本作を観ると未婚者ながらにそんなことに思わされ、しかもその劇薬的な示唆からか、思わず得心がいってしまうのでした。既婚者が見ると思うところはさらに深いのだろうと思います。もしかしたらもうちょっと相手の身になって考えてみようという気にもなるかもしれない。絶頂期の浮かれ気分から冷静になったり、かつての利発さを取り戻す気になったりするかもしれない。

クリスマスや年末休み、老若問わず勇気あるカップルに俄然推奨の一作です。

 

 


映画『ゴーン・ガール』予告編 - YouTube

作品情報『ゴーン・ガール』

原題:Gone Girl 2014年/アメリカ/148分/映倫:R15+
監督:デビッド・フィンチャー
製作:アーノン・ミルチャン、ジョシュア・ドーネン、リース・ウィザースプーン、シーン・チャフィン
製作総指揮:レスリー・ディクソン、ブルーナ・パパンドレア
原作:ギリアン・フリン
キャスト:ベン・アフレックロザムンド・パイクニール・パトリック・ハリス、タイラー・ペリー、キム・ディケンズ

(あらすじ)幸福な夫婦生活を送っていたニックとエイミー。しかし、結婚5周年の記念日にエイミーが失踪し、自宅のキッチンから大量の血痕が発見される。警察はアリバイが不自然なニックに疑いをかけ捜査を進めるが、メディアが事件を取り上げたことで、ニックは全米から疑いの目を向けられることとなる。(映画.comより)

 

 

*1:こう言うと同監督の古い作品『ゲーム』を思い出しますね。大好きです。