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case.728

映画とお人形ばかりで恐縮です

2014,3,10 PM12 【映画録28『アルゴ』】


本日のお品書き

  • アルゴ

いささかお金使いすぎマンです。別にドール関連がすべてではありませんけども反省。
とはいえ消費税が上がる前に使っておきたい気持ちがやはりムクムクと……(((`ω´;)))

※case.728の映画録は、5段落でまとめる観賞済みの方向け参考記事を目指しています(No.18から現在)。なのでネタバレについてはあることもないこともご容赦ください。

3月2日『アルゴ』


  • アカデミー賞の最終候補に挙がってたので気になってたんですよね。国際的な政治色はさておき、緊張状態の国から狙われている外交官6人を、ニセ映画のロケハンスタッフに偽装させて真正面から空港を経由して脱出させるという大胆で奇抜な脚本に、なんとなく三谷幸喜を想起させられつつ胸躍らせた次第。しかもこの脚本の核となっている脱出作戦、実際のイラン革命時に本当にあった事件だったというではないですか。実話を元にした系はあまり好んで観ないタイプですが戦争・紛争関連は別ですし、まさに嘘みたいなホントの話としてこういう“馬鹿げてる”ものは格別に新鮮な驚きも伴ってくれます。
  • 脱出モノといってもドンパチなし・カンフーなし。そんなものなくたって本作は頭から尻尾までスリル満点でした。イラン革命に伴う米大使館襲撃立てこもりが発生し、外交官6人が逃げ出してカナダ大使私邸に逃げ込む冒頭部分から一貫しての厳戒描写。蜂の巣をつついたような騒ぎのCIA本部、ちょっとジョークが言える雰囲気じゃない会議室……そんな中で主人公・メンデス(ベン・アフレック)が提案するニセ映画作戦。いかに彼が国外脱出手引きのプロと謳われるエージェントであるにしても、さすがに奇抜すぎて何言っちゃってんのおまえ状態。メンデスの主張は非常に合理的で柔軟性もあり、「映画屋は金になればどこへでも(ロケハンに)行く。だから逆に怪しまれない」という考えは素人にも通じる説得力。しかしそう思えるのは映像のこちら側で客観的に観ているからこそであり、実際の厳戒態勢の中でピリピリもしているプロたちからはなかなか支持が得られない。そうこうしているうちにカナダ大使私邸に潜伏している6名が徐々に精神的に追い詰められ、革命軍も徐々に彼らの存在に気づきかけていきます。上手いことこの描写を織り交ぜてくるので、観ているこっちはどこを観てもハラハラさせられて「他にマシな案がないんだから早くゴーサイン出せよ!」みたいな気分に。ようやくゴーサインが出ても上司はしぶしぶ&他のエージェントも懐疑的で人員を回してくれなかったりして非常に悶々とさせられます(潜入が主人公ひとりだったのは単に目立たせないためだった可能性が高いですが)。
  • いや正直他のエージェントたちも悪いと一概にも言えません。というか本作、言わせてくれないんです。作戦許可が下りて早速ニセの映画制作発表と製作事務所を用意することとなったのですが、製作責任者がホンモノでなくては本作戦は成り立たないため、主人公の個人的なツテで老獪な監督と助監督を確保。この二人がまたともにアクの強いキャラクターで、心強いはずなのだけれどなんとなく気が引き締まらなくてハラハラ。脚本はイランでロケをするのにちょうどいいのを選んだけれど、内容はチープなSFでまた緊張感がそぐわない。極めつけは制作発表時の脚本朗読パーティで、コスプレレベルの衣装で登場人物に扮した役者たちの居並ぶ様は完全にお葬式中のハエとオナラ。もうね、「近づくな!俺の緊張感を削るんじゃない!」みたいな心境に追いやられて、作戦会議やイラン側の描写のときのハラハラ度よりもさらに戦々恐々とさせられましたよ。見かけの説得力って大事ですね。
  • しかしこの、見かけの説得力のなさが本作の大いなる仕掛けの一つなわけです。ニセ映画をチープにすることで、観客の不安感は散々に煽られます。大統領あたりがこの作戦を知ったら即刻中止にさせそうだ(当時のカーター大統領が妙にヘタレである描写もちょくちょく入ってきます)。そもそも成功率自体は高いわけではない。“実行”と“成功”の二つの側面から観客はハラハラさせられるわけです。しかもこれが終始、作戦完了まで途切れることなく続くことになるのです。なにしろ、いざイランへ乗り込んで逃がすべき6人に会い、作戦を伝えると当事者であるだけにCIA会議室のメンバー以上に絶望的な反応を返しますし、そうして彼らがウジウジしている間にも革命軍は6人の存在に気づいて居場所や人相を割り当てはじめるのです。せっかく6人がやる気を出す段になれば、今度は米政府側が作戦中止を指示してきますし、強行したけど飛行機の予約キャンセルされるしで、最後の最後までギリギリ。久しぶりですよ、スクリーンの前で声を上げて応援したり急き立てたりしたのなんて。
  • あり得ない無血の脱出作戦劇としては存分に楽しめた本作ですが、しかしアカデミー賞で脚色賞を取っていることからもわかる通り、実際の事件の展開との相違点はいくつかありますし、歴史や国際認識的に観るとちょっとアレなところもあります。イラン革命兵士はとことんまで非人道的で残虐なものであり、イラン一般人も良識のない者が多数であるかのように描かれていますし、また米側がやたら正義のように描かれているように見えますが、イラン革命の原因になった元指導者をかくまった件などについては明確な意見を控えるかのようにしているせいで、あまりいつもの「米国が正義だ!」という堂々とした感じがありません。それがまた謙虚さとしていい意味で捉えられればいいのですが、本作の場合はもやっとする曖昧さ。こういう歴史的側面みたいなところで細かいところまで考える趣味はないのですが、あの6人の外交官への感情移入などにおいてはそういうのも絡まってこざるを得ないはずなのに、雰囲気だけで押し切ったような結果になってしまっているあたりは、後で考えるとちょっと歪な感じがします。まあ政治が絡むと難しいですよね。