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case.728

映画とお人形ばかりで恐縮です

4月14日【映画録35『黒い家 エンジビル』】


本日のお品書き

  • 黒い家 エンジビル

“ごく最近のホラー小説”って知らないんですよね。古本頼りの弊害がこんなところに。

最近お亡くなりになられた坂東眞砂子さんのファンで、『くちぬい』あたりは読みましたが結局そんなに作風を変えていく作家ではなかったんですよね。

一応湊かなえ貴志祐介あたりを現代のホラー作家として見ればいいんでしょうか。あんまりジャンル意識にうるさくはしたくないですが、要するに“怖い話”ですよ。いや本音をいえば超常系がいいんですけど。

本屋にリサーチに行けという話ですね。しかし最近ホラーの棚ってあんまり見かけないんですよ。もう少し待てば納涼特集とかやってくれそうではありますか。

※case.728の映画録は、5段落でまとめる観賞済みの方向け参考記事を目指しています(No.18から現在)。なのでネタバレについてはあることもないこともご容赦ください。

4月3日『黒い家 エンジビル』

「どうして邪魔するのよ」

  • 貴志祐介の小説で最初の映像化作品がこの『黒い家』。日本と韓国で二度の映画化がされていて、「エンジビル」とついているこちらは韓国映画版です。まだどちらも観たことがなかったのでどっちにしようかと悩みましたが、日本版は大竹しのぶの怪演が有名ではあるものの(森田芳光監督という時点でちょっと……)、映画全体としての出来はR-15指定でしっかり作られた韓国映画の方が上だとどこかで誰かが全力プッシュしていたのにそのまま押されてみました。確かに黒かったです。
  • お話は、保険会社の査定員として働き始めてまだ日の浅い主人公が、驚異的なしつこさで保険金を引き出そうとしてくる“黒い家”に目をつけられ、詐欺容疑で警察に突き出そうとしたら逆ギレされて酷い目に遭うというもの(ザックリ)。自作自演の事故で保険から大金をせしめる(しかも韓国)といえば、自分としては最近観た『嘆きのピエタ』を彷彿とさせられましたが、こっちの方がもっと酷い。保険金のために障害者になるどころか、実の息子すら平気で殺すのです(自殺に見せかけて完全犯罪を狙います)。ここで唐突に釣りバカ日誌を思い出しましたが、浜ちゃんがよく親類の喪中と会社に嘘をついて釣り旅行に行くあの手と、親類の喪中が嘘でないこと以外は要するにおんなじです。最終的に浜ちゃんは奥さんまで殺して釣りに行きましたが、本当に殺したかどうか以外はいい勝負という“保険金釣りバカ日誌”が本作です。ただし、佐々木課長がなかなか首を縦に振らないのでブチ切れた浜ちゃんが、そんな融通のきかない首はちょん切ってやると言い出して包丁持って追い回します。もうやめて!とっくに課長の胃薬はゼロよ!
  • スプラッター映画なら本当に終始追い回すのでしょうが、実際の“黒い家”は真綿で絞めるように主人公の周りから徐々に徐々に追い込んでいくのが見所です。同時にその家の本当の闇も、不気味な気配を漂わせながら忍び寄ってきます。わりと展開が読めたりはするんですけど、むしろ押さえるところを押さえてくれてる感じですね。「そりゃあ今までも何人かヤッてるよねコイツ!そりゃあそうですよね!」という感じ。しかしこの“黒い家”の全容がまた絶妙なペースで明らかにされていくので飽きることもありません。くるぞくるぞ、というワクワク感がたまらないんです。そして全容が明らかになってからも怖い。
  • 宣伝などでも充分わかっていることなのですが、本作の事件の首謀者は女。ただし劇中では中盤過ぎまでその夫がブラフとして前に出ているのでネタバレされたみたいに感じます(^_^;)。女の狂気が顔を出してくるのは後ろ三分の一。それまでひたすら不気味さと曖昧な異常性といった雰囲気の方を色濃くし続けていたものが、女が動き始めることで一気に形を成します。その有様は完全に“殺しにかかってくるストーカー”のそれ。恐ろしいのはその執念深さ……に裏打ちされた耐久性でした(笑)。ためらいのなさや野生じみた勘の鋭さは恐ろしいものの、犯行そのものは感情的なので、舌を巻くような頭脳犯でもないため主人公にかなり抵抗されるんです。しかし固い。打たれ強い。「まだだ、メインカメラをやられただけだ」をやってのけるほど。女を演じてる女優がユ・ソンですから体格とのギャップもあって、幾度となく這いあがってくる様がどストレートに執念として伝わってくるんですよ。ターミネーターかおまえは。
  • 終わり方もエスプリが効いていていいですね。安心させておいて落とす。それも、よくホラー映画であるような、「恐怖はまだ終わっていなかった……」みたいなありがちな終わり方とは、似ているようで一線を画しているんですよね。新たな始まりを感じさせつつも、確証は人波の中に紛れ込んで見えなくなり、不気味さだけが残り香みたいに漂う。本作で取り上げられたような“特殊なケース”が、どこに潜んでいるかわからない普遍的なものにすり替わり、他人事ではないぞと静かにしかし脅かすように訴えかけてくる。主人公が勝つか負けるかで終わり、ではないんですよね。“次”はあなたかもしれない、みたいな気取ったフレーズがしかし言葉そのままとしてはピッタリで、その実背筋はゾクゾクする。ほのかな後味の悪さに口の端が引き攣ります。


(対徳政令リスト)

  • 4月3日『黒い家 エンジビル』
  • 4月4日『デビル』
  • 4月6日『オーディション』
  • 4月7日『ウェイヴ』
  • 4月8日『ザ・プロジェクト』
  • 4月14日『フッテージ