case.728

映画とお人形ばかりで恐縮です

6月4日【映画録49『ドリーム・ホーム』】

※case.728の映画録は、5段落前後でまとめる参考記事を目指しています。
ネタバレするかしないかは各記事の都合によってまちまちですので、しててもしてなくてもご容赦ください。

5月30日 ドリーム・ホーム *1

「あの家が欲しいの」


1. 経済格差がものすごい都市、香港。2011年の時点で平均月収1万香港ドル(日本円で10〜11万くらい)で、しかも人口のうち4分の1の人がそれ以下の月収なのに対して、マンションの価格は500万600万がザラ。いったい誰が買えるんだってぐらい、庶民から見た地価の高騰ぶりには狂気じみたものがあったようです。当然、一金融会社の電話営業員に過ぎない女性などには、海の見える一等地の高級マンションなんて夢のまた夢。それでもマンションが欲しかったら、その女性はどうするか。狂った都市で生き残るには、その狂気を上回るしかないじゃない!


2. という触れ込みで、マンションが欲しくてしょうがないOL・チェン(ジョシー・ホー)が住民12人をぶち殺しまくるスプラッタームービーが本作。画面を見ながら悲鳴を上げたくなるスプラッターは、やっぱりいいものですね。いてえ。ちょういてえ。しかも本作はまたありえないような残酷描写の連続が、どうにもシュールでユーモラスで飽きが来ない、良質のスプラッター。めちゃくちゃ痛そうで怖いのに、やってること自体はどう見てもギャグっていうホラーはすごく楽しいです。


3. マンション欲しすぎて殺人鬼になっちゃう主人公チェンさんが、存外にやたらと同情できるキャラとして描かれているのも特徴的で好印象なところです。いとこに顧客名簿を売ってくれと言われて躊躇したり、不倫相手と寝たホテルの宿泊代を立て替えたり。めちゃめちゃ聖人というわけではありません(むしろその方が同情しにくい)し、良識は忘れないけれどもろくて人間臭い。それでもつつましやかな希望を胸に日々コツコツ努力し続け、目的のために自分に節制を強いる。そんな健気な小市民ぶりに好感を持てる彼女が、しかし香港の経済格差の前に「海の見える家が欲しい」というたった一つの自分の願いに押しつぶされていく。そもそも普通に家が欲しいという人並みに願いが狂気に変わる以前に、なぜ家が欲しくて努力するようになったのかというところからわりと丁寧に描かれているおかげで、最終的にこちらが「そりゃ狂いもするわ」と自然に納得できるほど説得力のある物語にもなっているのです。


4. ついでに殺しが全然プロフェッショナルじゃなくて泥臭いのも、チェンさんのキャラクター的に好印象。怪我はするわ、不意打ちで反撃はされるわ。彼女が窮地に立たされるたびに応援したくなってしまいます。


5. トレーラー等の触れ込み通り、話のオチはチェンさんが“なぜ”マンションの住人を殺しまくったのかになっているのですが、この“オチ”はわりと中盤までで読めてしまいます。鍵となるのは“価格の吊り上がったマンションを買えるようにするにはどうすればいいか”。ただ、この大きなオチが読めてしまっても細かい展開はわりと読めないようになっているため、さして問題はなかったりします。先述したとおりスプラッターの表現自体も面白いですし、チェンさんに感情移入できてしまうというのもあって牽引力は最後まで衰えません。そして予想通りのオチだと思いきや、さりげなく二段オチになっているのも嬉しいところ。サブプライムショックのあの脱力感がまたたまりませんでした。

*1:“ドリーム・ハウス”とよく間違える。