case.728

映画とお人形ばかりで恐縮です

6月5日【映画録50『ロルナの祈り』】

※case.728の映画録は、5段落前後でまとめる参考記事を目指しています。
ネタバレするかしないかは各記事の都合によってまちまちですので、しててもしてなくてもご容赦ください。

6月1日 ロルナの祈り

「あなたは生きて」


1. 愛しのダルデンヌ兄弟観賞5本目となります。あいかわらず彼らの作品に言葉を尽くそうとすると無為さに負けそうになってつらい(笑)のですが、今回は『息子のまなざし』のときのように逃げずに感想を書こうと思います。少なくとも本作は『ある子供』や『ロゼッタ』ほど強烈な痛々しさを伴う作品ではなく、わりと“軽い”方ではありましたが、代わりに脚本の妙がかなり光っており、また“大きな犯罪に加担する成人女性”が主人公(被写体というべきか)のためか、感情の動きが複雑で振れ幅も大きく、そしてエネルギッシュとはまた異なる静謐な力強さがある。ゆえに深みは非常にある作品となっていました。


2.(あらすじ)アルバニア出身のロルナ(アルタ・ドブロシ)はベルギー不法入国者。彼女はベルギー国籍を手に入れるために闇ブローカーを通じて重篤のヤク中・クローディ(ジェレミー・レニエ)と偽装結婚する。近々彼が中毒死したら国籍を持ったまま未亡人となって、次はロシア人との偽装結婚に協力するという闇ブローカーとの取り決めだった。この仕事をやり遂げれば大金を手に入れて、彼氏と一緒にカフェを開ける。しかしながら偽装結婚相手のクローディは実は麻薬をやめたくてしょうがなかった。最初はそんなのあたしの知ったことかとばかりに彼を放置するロルナだが、次第に彼が本気で薬をやめようとしていることに気がつき、彼の治療を手伝いながら普通に離婚してもブローカーとの取引が成立する道を探り始める。衝突し、傷つけ合いながらも、次第に実を結んでいくロルナとクローディの努力。いつしか支え合う仲になっていた2人を待っていたのは、しかし残酷にも離れていく運命だった。ひとりになったロルナは何を選ぶのか。


3. このあらすじだけ見ればわかるとおり、お話の中核はわかりやすい恋愛的な“愛”の物語。ここへ主人公ロルナの人生をかけた組織犯罪への加担という要素や、そのためにはヤク中のクローディに順当に死んでもらわなければならないという状況が加わってくるおかげで、お話としては他の作品よりもわかりやすく緊張させられるものになっています。カメラもいつもより引き気味で、登場人物をクローズアップすることよりも状況を映すことに焦点が当たっているようでした(あくまで同監督作品の中ではですが)。


4. その分というべきかどうか微妙かもしれませんが、主人公ロルナへの感情移入度はそんなには大きくなっていきません。惚れた腫れたに興味が湧かないから(^_^;)というのがないは言いませんが、それだけではなく。クローディの治療の手伝いが思いのほか大変で、しかしやっぱり彼に死んでほしくなくて、しかし死んでもらわないと取り引きの成立が危なくなって自分の人生が狂うかもしれないし、それに取り引きは自分だけのためのものではありませんし、しかしそもそも犯罪行為だし……と、彼女の葛藤はなかなか複雑な様相を呈していて、気持ちの在り処や形をなかなか掴ませてくれないからでもあります。痛烈な感情の訴えでぐいぐい迫ってこられるのもそれはそれで神経の耐久力(集中力かな)を試されるのですが、振り回して掴ませないのもついていくのが大変ですね。ただしこの感情のバラエティの豊かさが脚本の面白さに回帰しているあたり、作品の機序としては成立しているものと取れます。


5. それに、この不定形極まる感情の形と在り処は、一気に凄絶な展開となる後半の脚本を介して最終的にただの一点に集約されていきます。万人が興味を持ちづらい惚れた腫れたから、より神聖で高潔な無欠の“愛”へと進化する。これはこれで高潔さが浮世離れしたレベルまで昇華してしまうので、ある種幻想的な印象を抱く代わりに、突き刺さるような感銘を受けることはないかもしれません。ただ、彼女の置かれた現実との対比としてそこに残る切なさだけは別で、その感傷だけは彼女を私たちの側に繋ぎとめ、幾多の葛藤を経て彼女が辿り着いたたった一つの愛へ、私たちを陶酔させてくれることでしょう。とめどなく打ち寄せていた波の激しい起伏に比して、とても静かで穏やかな幕引きです。