6月15日【映画録54『MAMA』】
わかってるのさ。今かまけてることが終わらない限り自分はどこにも行けやしないって。
と思いたいだけなんじゃないかって面倒な気づきですよね。これ習慣化しちゃうとホントやばいです。ロクなことにならない。たいていは一つ前で覚醒した気分になっておくのが得策なんです。
そうは言いつつもサッカーはだらだら観ちゃいます。
サッカーを観ることがだらだらすることなのかどうかは置いておいて、他にすることがあってもテレビに映ってると目で追っちゃうしイエローカードが出たらリプレイを食い入るように見つめて「えーっ、今のがイエロー!?」なんて考えたりしちゃうんですよね。
※case.728の映画録は、5段落前後でまとめる参考記事を目指しています。
ネタバレするかしないかは各記事の都合によってまちまちですので、しててもしてなくてもご容赦ください。
6月10日 MAMA
「MAMAMAMAMAMAMAMAMAMAMAMAMAMAMAMAMAMA……」
1.
ギレルモ・デル・トロといえば個人的にはダークファンタジー路線の色濃い『パンズ・ラビリンス』が最高に好きな僕です*1。
本作は監督作ではなく総指揮ですが、またオカルトホラーな路線ということで手を伸ばさざるを得なかった次第。
パシリムで上がりまくったネームバリューからか、レンタルはかなり待たされましたが、いや待った甲斐がありましたね。
ホラーとしてもすごく楽しかった上に、型へのハマらなさがまた凄絶で、正直かなり面白かったです。
2.あらすじ ~“ママ”が育てた野生児姉妹~
投資関連のお仕事をしていたパパは、ある日仕事に失敗して自棄になって人を殺してしまったらしい。
挙句に仲の悪かったママも殺して、幼い娘二人を連れて車で逃げた。
しかし雪の山道で操作を誤り崖から転落。軽症で済んだものの遭難し、辿り着いた山小屋で“何か”に遭遇する。
五年後。パパの弟・ルーカス(ニコライ・コスター=ワルドー)は通帳を紙切れに変える必死さでパパを探していたけれど、雇った探偵たちがついにあの山小屋を発見した。
パパは結局見つからなかったものの、山小屋には姉妹が野生児の状態で生き延びていた。
姉妹に社会性を取り戻させるため、同棲中の恋人アナベル(ジェシカ・チャステイン)にも協力してもらって四人の共同生活が始まる。
姉のヴィクトリア(メーガン・シャルパンティエ)はすぐに心を開いて、妹のリリー(イザベル・ネリッセ)も徐々に大人に歩み寄っていく。
しかし二人には、二人だけを愛する嫉妬深い“ママ”が付き添っていた…。
3.“母親の幽霊”のお話
考えると違うところの方が多いですが、なんとなく映画版の『仄暗い水の底から』を彷彿とさせられる設定です。
ただ悪霊が暴れ回るだけのものかと思っていたら、ちゃんと“幽霊”というモチーフでしか味わえない底の深さを押さえた展開にもなっています。
子を求める母親の幽霊、ってそれだけでもう湿っぽいはずですが、なかなかこの湿っぽさをホラーの脚本でなんちゃってでもなく上手く表現できた作品って少ないような気がします。
ラストもあまり詳しく書かないことにしますが、ギレルモ・ダークファンタジー路線の期待を裏切らない痛切さ。だって5年はこの人が育てたんだもの!と言いたくもあり納得したくなくもあり。
そんな感傷の中核を担う本作の“ママ”は、しかもただ湿っぽいだけじゃない。
4.まさか投げ捨てるとは思わなんだ…
パワフル!これぞ母性(物理)!!
と言わんばかりにやたらと力強く迫ってくる“ママ”です。その迫力で狂気を演出してくる感じからは“執念”みたいなものが直に伝わってくるのか、なかなかに怖かったですね。
理由のない殺戮やゴア表現に頼らないあたりも、“ママ”のストイックさを際立てているみたいで好印象。
ラストシーンの切なさにもこの“パワー”が拍車をかけています。
姿が見えないうちも、焦らすような演出が凝っていてそれなりに怖いのですが、その手のホラー映画で姿が見えてなおも恐いと思える怨霊や怪物ってなかなかお目にかかれません*2。
安っぽい驚かせに走っちゃってるところもないではないのですが、それでも恐い。
姿が見え始めるにしたがって、おぞましさから純粋な“強さ”に対する恐怖へとシフトしていっているようでした。
5.安いようでイカしたカメラワーク
“ママ”の姿が見えないうちや“ママ”以外の恐怖演出もところどころ好きですね。
カメラ固定で扉の開いた子供部屋と廊下の奥が映っていて、子供部屋ではリリーが誰かとシーツで綱引きをしている。相手はヴィクトリア以外に考えられないのですが、そう思っていたらヴィクトリアが廊下の先に登場するのです。
えっ、じゃあリリーは誰と遊んでるの?
しかしカメラ移動や音楽による特別な演出もなく、子供部屋の扉が閉まってそのシーンは終わり。
ただし扉が閉まる前の一瞬子供部屋に…!といった、実のところ展開には影響しない映像演出というのがわりと随所に散りばめられていて、被害はまだ出ていないうちから“家の中に何かいる…!”という不穏な印象を殊更に煽り立ててくるのです。
廊下の影に四足歩行のリリーが佇んでいるだけの絵とか、あれもぞくっとしましたね。
姉妹が基本的に楽しそうにしてて、“ママ”も姉妹と遊びたがっているだけなので、ルーカスやアナベル目線のこちら側は余計もやもやと焦らされます。
6.訓練された野生児姉妹
あとはやっぱり子役の演技ですね。
普通の演技もやはり最近の海外子役はレベルが高いなとことあるごとに思わされる例に漏れないのですが、あの野生児状態の演技には度肝を抜かれました。
素早い四足歩行なんかはさすがにCGを使っているのでしょうが(そのCGも安心と信頼のギレルモ・クオリティ)、普段の四足歩行も堂に入っていて、そこいらの子供がうさぎさんごっこをしているのとはわけが違います*3。
おまけにイザベル・ネリッセの方の完全に手負いの獣じみた心を開かない凄味のある表情の演技。
「はは、最近の海外子役はレベル高いなー」って言ってる僕の声は思いっきり震え声になりました。感服です。
(了)
この映画を観たときの話ですが、映画自体とは関係ないので欄外。
いつものPCモニターではなく高画質の液晶テレビ(SONYのトリルミナスディスプレイ)で観賞したのですが、線はくっきりはっきり綺麗ですし色も鮮やか。しかしその分なんかのっぺりして安っぽい映像に見えました。いつかブルーレイで作品を借りてきたときも似たようなことを言ってた気がします。
もちろんPCのモニターで見直すとそんなことはなく。ていうか上のスクショがうちのデスクトップ画質です(後から少しハイライト上げてます)。
普段はそんな神経質そうな話を気にするのは馬鹿馬鹿しいと言ってしまう方なのですが、実際あんなに気になるとは思いませんでしたね。